高木凛々子、2020福山ニューイヤーコンサートを聴く 
 

   


2020年1月13日、広島県県民文化センターふくやまにて第50回記念福山音楽祭の最後のトリとしてニューイヤーコンサートが開催された。
パンフレットにもある通り、副題は「高木凛々子超絶のヴァイオリンと華麗なるウインナワルツの饗宴」となっている。
この福山音楽祭には第49回でも高木凛々子が演奏してくれたので、福山での演奏はほぼ1年ぶりということになり、私が聞くのは昨年5月の広響とのメンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルト以来ということになった。そして今回も親子共演だ

しかしまず気になったのがこの副題である「高木凛々子超絶のヴァイオリン・・・」というくだり。彼女のテクニックは一級品であるしパガニーニなんかは素晴らしい。速弾きも上手いし音量もあるしピッチも全然狂わない。でもテクニックが上手いだけのヴァイオリニストには絶対になってもらいたくないものだ。
事実、以前の演奏で気になっていたのは彼女は歌うことが苦手じゃないかということ。昨年聞いた広響とのメンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトも切々と歌い上げるものではなく、明るく野太いメンデルスゾーンという印象を持たされるものだった。
そういった中で今回の副題は「超絶のヴァイオリン・・・」となっていて、相変わらずのテクニック売りなのかと思ったのだ。


当日は3000円で当日券を購入して会場入り。
しかし客が思っていたよりも少ない。全席530席の内の七部入りくらいか・・・
考えてみると、自分がこのコンサートを知ったのは彼女のツイッターであって、リーデンローズから毎月送られているコンサート案内には他の会場のパンフレットはあってもこの福山音楽祭のパンフレットは一切入っていなかった。さらには会場の隣にあるエストパルクにもパンフレットは1枚しかなく、持ち帰り用は無し。
さらにその福山音楽祭のパンフレットにも彼女のことが書いてあるのは最下段の1/6の部分のみ。さすがにこんなコンサートがあるなんて知っている人は身内か私のような彼女のファンだけなのではないだろうか。いかにも宣伝不足ではなかったか。予算の都合なら仕方ないけれど、本来彼女の演奏ならもっといっぱいになっても良かったはず。



プログラム
 <第一部>
 ・ヨハン・シュトラウス:ジプシー男爵より「入場行進局」(マリンバ)
 ・サラサーテ:チゴイネルワイゼン     (ヴァイオリン&ピアノ)
 ・ラフマニノフ:ボカリーズ        (ヴァイオリン&ピアノ)
 ・クライスラー:ウイーン奇想曲      (ヴァイオリン&ピアノ)
 ・モーツアルト:トルコ行進曲             (マリンバ)
 ・サラサーテ:カルメン幻想曲      (ヴァイオリン&マリンバ)
  休憩
 <第二部>
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 ・ヨハン・シュトラウス:美しく青きドナウ       (マリンバ)
 ・シュランメル:ウイーンはウイーン         (弦楽四重奏)
 ・ヨーゼフ・シュトラウス:ギャロッピン・ポルカ   (弦楽四重奏)
 ・ヨハン・シュトラウス:ウイーン気質        (弦楽四重奏)
 ・ヨハン・シュトラウス:雷鳴と雷光    (マリンバ&弦楽四重奏)


上記の様にセットリストはマリンバとヴァイオリンと弦楽四重奏の3種の組み合わせで、純粋な高木凛々子ソロは3曲のみとなっている。

二曲目、深紅のドレスで彼女が登場。
いきなりのチゴイネルワイゼンの演奏。この曲、1年前の福山音楽祭でも最後に演奏された。インテンポで演奏しては絶対にいけない前回辛口の批評をしたこの曲。若い女性には難しいという印象を持っているので、それほどの大きな期待も無しでこちらも聞き始めた。
ところがどうだ。前半のスローなパートを聴いているうちに、どんどん演奏に惹き込まれてしまい、途中から私は大人気ないことに感動で目頭がウルウルしてしまったのだ。
後半のアレグロ部からは彼女の独壇場。全編伴奏の高橋元子氏との息もピッタリで、私には完璧とも感じられる演奏だった。
それにしても一年前に聞いた時と全く異なる印象。この僅かの期間でどれだけ彼女が変わったのか成長できたのか、なんか考えると嬉しくなった。

三曲目、ラフマニノフのヴォカリーズ。切なく聞かせる曲だ。
この曲はともすると冗長になってしまうが、彼女はしっかりと飽きずに聞かせてくれる。
そんな時、音色が以前の彼女の音色と異なっていることに気が付いた。高音部にノイズ感といっては聞こえが悪いのだけれどサーという音、よく言えば倍音のような音が耳について聞こえてきた。その音色自体は正直なところそれほど良い印象ではなかったのだが、きっとヴァイオリンを新しく代えたのだと思って、連れにそんな話をちょうどしたところ。

ところがそのヴァイオリンがなんとストラディバリウスだったとは、曲が終わって彼女から説明があった時にとても驚いた。
丁度前日の広島公演からストラディバリウスが実際に借りられるようになったのだそうだ。
遂に彼女のもとにストラドが!・・・
私が直接聞いたストラドはこれで5本目となるわけだけれど、毎回幾分違った音色だという印象を持つ。共通点としては倍音が多く感じられることなのだが、同じストラドでも楽器が異なればもちろん音色が違うし、演奏者が異なれば変わる。さらに弓も異なれば変わるだろう。しかし今回のストラドはなんという何年製のストラドなのか気になるところ。そしてどこから借りることが出来たのか、いつまで借りられるのかというのも気になるところだ。諏訪内晶子のドルフィンは確か日本音楽財団から長期貸与されているもの。それと同じようなパターンなのか・・・
なんといっても億の単位の金額は絶対にする特別の楽器。誰でも借りられるというものではない。そして彼女がストラドを借りられるという立場になったということは、もうそれなりに立派に評価されるようになったということでもあって本当に嬉しい限りだ。是非ホームページなどでその詳細を公開してもらいたいものだと思う。

ただ一方で「ストラディバリウス=良い音」という公式は絶対という訳ではないので、そのあたりは別として考える必要はあると思う。例えばベンツやロールスロイスが一番良い車なのかどうか、乗る人によって答えは変わってくるだろう。実際にヴァイオリニストが実験をして、現代の楽器の方が良い音と判断されたという結果も残っている。今回自分も個人的には正直あまり良い印象ではなかったし・・・・でもストラドの音だと先に言われればいい音だと感じるのかもしれないが(汗)

今回チゴイネルワイゼンを聴いて自分が感動したのは、その楽器の影響が無かったのかどうか?これも今となってはわからないが、そのストラドの音色が曲にあっていたということはいくらかありそうな気もする。とはいえ少なくともその感動の9割以上が彼女の実力であるのは言うまでもない。



ところで共演のご両親と樋口氏は前回の福山音楽祭の時と同じ、相変わらずお母さんはお綺麗。そしてマリンバの石原さんと広島ジュニアアンサンブルはいずれも世界的な演奏家ということができる。
実際マリンバの腕は全員本当に凄くて驚くばかりだったのだけれど、唯一県民文化センターが響きすぎるのが原因なのか、濁って聞こえてきたのがとても残念だった。

第二部は全てウインナワルツ。曲もコラボも全て楽しく、司会者の方も上手に場を盛り上げてくれた。
ウイーンでは新年になる前に爆竹を鳴らしてお祝いする習慣があるとのことで(現在は禁止されているようだが)、最後の曲「雷鳴と雷光」の時にそれにならって天井から300個の風船が落ちてきて、お客さんみんなでそれをパンパン割って、同時に金銀の紙吹雪が舞って、ウイーン流の新年のお祝いをするというイベントがあった。
アンコールはウイーンフィルのニューイヤーコンサートにならってラデツキー行進曲の手拍子付き

いやいや老若男女が楽しめる本当に良いコンサートだった。(めざましクラシック並かな)
是非来年もまたやってほしいものだ。

 




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追記

YouTubeで彼女のバルトーク国際コンクールでの本選のチャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトとモーツアルトの5番のヴァイオリンコンチェルトそして記念演奏会でのブラームスのヴァイオリンコンチェルトを聴いてみた。
本選のチャイコは緊張のせいか1楽章の前半において音楽にまだ溶け込めていない印象を持ったが、カデンツァ以降についてはノビノビとしていてとても聞いていて心地よかった。
モーツアルトは個人的にはもっと軽快にインテンポで演奏してもらいたいところ。ちょっと重いというか古典派というよりもロマン派寄りに聞こえた。
ブラームスについては終始堂々とした演奏で、最後まで立派に弾き切ったという印象。もしこれが本選だったらきっと一位をとれたのではないかという気がした。
これらはあくまで個人的な印象だけれど、もしCDが発売されたら全部自分のリストに加えたいものだと思う。
YouTubeには他にもたくさんの演奏がアップされているが、最近の演奏はアーティキュレーションも上手になって本当の一流の仲間入りをしてきているのではないかという気がする。
彼女自身25歳まではコンクールをいろいろ受けると以前話していたけれど、是非とも有名国際コンクールで一位をとって、華々しくCDデビューをしてもらいたいものだと無責任にも思ってしまう。
そのためには体力作りも頑張って・・・
そうそう、英語も頑張って・・・
いらないお世話だと怒られそうだけど(汗)




高木凛々子ヴァイオリンリサイタル(2020/9)を聴く