千住真理子考2


 2005年3月27日、千住真理子が府中市文化センターにやってきた。
ぬまくまサンパルホールで千住真理子を聞いたのが2003年9月だから彼女を聞くのは1年半ぶりだ。

 当日はあいにくの雨、車が込んでいて府中の天満屋に着いたのがちょうど開場時間5分前。
今回のコンサートはソロプチミストのチャリティーコンサートということもあったのか、文化センターは既に多くの人でいっぱいでサンパルホールよりもずいぶん大きいにもかかわらずほぼ満席の状態。
でも、運よく正面の8列目に座ることができた。

 「タンスの町」府中市は比較的クラシック音楽の水準が高い町で、上下町を合併しても5万に満たない人口であるにもかかわらず、「府中・シティ・オーケストラ」というちゃんとした市民のオーケストラがある。さらにその演奏の水準も福山市以上かもしれないと思う。

 当日のコンサートプログラムは
第一部
J.S.バッハ   :G線上のアリア
シューベルト  :アヴェ・マリア
ヘンデル    :ラルゴ
ラフマニノフ  :ヴォカリーズ
モンティ    :チャールダッシュ
ベートーヴェン :ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」より第1楽章
第二部
エルガー    :愛のあいさつ
リスト     :愛の夢
シューマン   :トロイメライ
メンデルスゾーン:歌の翼に
マスネ     :タイスの瞑想曲
サラサーテ   :チゴイネルワイゼン
 という演奏曲目となっている。
ぬまくまのときと同じ曲が3曲。そのときと同じようにとても親しみやすい曲ばかりを集めた構成だ。
ただ今回は「ツィゴイネルワイゼン」があるのでそれが興味深い。
さて、今回はどんな演奏を聞かせてくれるのか


 開演となり、千住真理子がブルーの衣装で現れた。
胸の辺りが黒のレースになっていて青の生地はなんというのかキラキラ光っている
伴奏はいつもの藤井一興氏だ。

 1曲目の「G線上のアリア」が演奏される♪
音を聞いてぬまくまの時と同じ「デュランティー」(ストラディバリウス)だとすぐにわかった。
ただ耳が慣れてるせいかもしれないが、前回最初に聞いたときほど不自然さは無く1曲目から自然な音だった。
淡々と音が流れ1曲目は終了。

 一旦舞台の袖に引っ込んだ後、マイクをもって現れた彼女から弾いているヴァイオリンの由来の説明とホールの空調管理(ヴァイオリンのために湿度を30%に管理)に感謝する説明があった。
これはぬまくまの時も同じ。やっぱり「デュランティー」の宣伝だけはまずしとかないといけないだろう。
聞きに来てる普通のお客さんはストラディバリの音を聞いたとわかっただけで得をした気になるからだ。
 

 最近は高嶋ちさ子もストラディバリの「ルーシー」というのを手に入れてそれを宣伝しているが、それも当然だ。
そういえば、諏訪内晶子はストラディバリの「ドルフィン」を使っているが(貸与)、彼女はコンサート中ヴァイオリンの説明をなにもしなかった。借り物だというのもあるかもしれないが、せめてプログラムに書いておくとかした方が一般人には親切だといえると僕は思う。知っていても今回はひょっとして違うのを持ってきてるんじゃないかと疑ってしまう。(音を聞いていきなりこれはストラディバリウスの音だなんてわかる人は同じ人が両方弾いたのを聞き比べたことがある人ぐらいだから、ストラドだと言ってしまえば嘘でもほとんどの人が(僕も)信じるだろう。)
まぁそのくらい「ストラディバリウス」というのは知名度が高くて価値を認められている。

 「2ちゃんねる」の掲示板で千住真理子が「デュランティーの宣伝をしまくりだ」とかいろいろ悪く書かれているのを見かけたことがあるが、ある意味コンサートに来てくれるお客さんへのサービスなんだからいいことだと僕は思う。またストラドを聞きたいが故にコンサートに来られる方がいるのならそれもまたいいことだと思う。
またその掲示板では「彼女にストラドはふさわしくない」などと酷評するアンチ千住真理子の人たちもいる。
根拠は彼女の腕が悪いということらしいが、音楽家として評価するかどうかというのはお客の側。その人がどう思ってもお客が入る音楽家というのはそれなりに評価されているということだ。ストラドを持ってお客さんが増えるというのも実力のうち。(^^;;。アンチがいるって事は人気があるってことだしね。

 なんかそれを読んで考えるうち、ストラドとフェラーリをラップさせてしまった。
「彼にフェラーリはふさわしくない」と言ってるのと似てる気がしたからだ。フェラーリはステイタスだから誰でも欲しいが値段は高くてメンテナンスも大変。
 フェラーリのよさをわかって乗ってる人がいったいどれくらいいるんだろう。少なくともフェラーリが良いという人は性能が良いから良いといっているわけではない。フィーリングが良いということとステイタスが高いと世間が認めているから良いといっている。ステイタスが高いというのは値段が高いということと比例する。フィーリングは人それぞれだから結局は世間の噂と値段ということ。まったく同じ車をいきなり耕運機メーカーが作っても世間の価値は低いものになる。それはまるで生前は認められなかった画家の絵のようなものだ。
 少し違うのはフェラーリは誰もが見たらフェラーリだと思うけど、ストラドはこれがストラドだと言われないとわからない。困ったことにほとんどのヴァイオリンが現代はストラドモデル(デザインが同じ)となっていて見た目では判断がつかない。音を聞いてもわからない。だから持っていても言わなきゃ周りはわからないし、周りはそれを信じるしかない。

 そういえばヴァイオリンは300年くらいたった物が一番音が良いといわれている。現代のバイオリンも手入れがよければ300年後にはストラド以上の名器になっているかも(^^;;

 それと、僕は「デュランティー」以外は「ドルフィン」と「ルーシー」そしてパールマンの「ソイル」しか直接聞いたことが無いけれど、少なくとも同じストラディバリウスでも全く音が違う。楽器そのものが違うから音が違うというのもあるだんろうが、弾く人が違うから音が違うというのが一番大きいんじゃないだろうか。
僕が思うのは弾く人の弾き方というのもあるけど、その人の体系・骨格というのもあると思う。音はヴァイオリンから出てるだけじゃなくて人間も共鳴して音を出している。気のせいかもしれないが良い音を出す演奏家はエラが張ってるという気がするんだけどどうかな・・・

なんかまたずいぶん話がそれてしまった。コンサートの話に戻ろう。


 シューベルト・ヘンデル・ラフマニノフとゆっくりした曲が演奏されたあとモンティの速い曲の演奏。
彼女のヴァイオリンの音は見た目や本人の肉声とは違い結構野太い感じの音で、また倍音がたくさん出ていて響きが豊か。そして前回も書いたけど一音一音をしっかりと弾いて音がはっきりしていて音量も大きい。音量の大きさはコンサートバイオリニストには必須条件だ。
 また彼女のヴァイオリンは少し♯気味に音が出るのが特徴。速い曲には緊張感があってよくマッチしていて僕は好きだ。遅い曲の場合は僕はあまり好きじゃない。これを音程が悪いという人がいるが決して気になるレベルではなく個性だと僕は思う。少なくとも巨匠イツァーク・パールマンの演奏よりずっと音程は揃っていると僕は思う。
 ビブラートも(音の揺らせ方に)特徴がある。これも聞き手の好き好きだと思う。
チャルダッシュの印象は前回と全く同じ。伴奏のアレンジは好きじゃないけど演奏はとてもよかった。

第一部が終わって第二部に入る。
彼女が登場したとき衣装が一部と同じなのでがっかりした。一部の衣装はどうも彼女には似合ってない気がしたからだが、これも僕の主観。しかしコンサートでは見せることも重要だとおもうので着替えて欲しかったな。

第二部も有名曲のオンパレード。あっという間に最後のサラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」の順番になった。
演奏の前に曲の説明と「弱音器を途中で落としますがわざとですから」というコメント。なかなか話術も巧みだ。
 

「ツィゴイネルワイゼン」という曲はヴァイオリンの曲の中でも一番有名な曲じゃないだろうか。ヴァイオリンの技巧を見せ付ける曲だし迫力があって良く演奏される。僕が今回一番楽しみにしていた曲だ。生でも諏訪内晶子と高嶋ちさ子の演奏は聞いたことがあるし、持っているCDも数えてみたら6枚あった。
 ただこの曲、技術があって速く弾けるということは最低条件だが、若いお姉ちゃんが弾くとイメージに合わない。ジプシーの曲なのだが、人生の苦労を知った熟年女性がシャンソンか演歌を鬼気迫る感じで歌うといったイメージの曲。僕の中では石川さゆりの「天城越え」に近いものがある。諏訪内晶子なんかは明るくいとも簡単に奇麗に弾いてしまうので「これってなんか違う」という印象だった。音質も艶やかではなくザラザラで尖った感じのほうが似合ってる気がするのだ。僕のベストは「チョン・キョン・ファ」のCDだ。


 千住真理子の演奏はどうだったかというと、それがテンポも良くしっかりと音が出ていて鬼気迫るものが伝わってきて素晴らしかった。少し音が♯するのも緊張感が出てとてもいい。彼女も熟年の域に入ってきたかと感じる。テクニックもなかなかで、曲の最後に近い左手ピチカートの見せ場もこんなにはっきりと音を聞いたことは無いくらいだった。彼女の汗が感じられ、これなら観客も間違い無く興奮する。
惜しむらくは右手のピチカートのところの2箇所(中間部と曲の最後の2音)の音が聞こえなかったこと。汗で右手がすべるのか、もしくは指を怪我をしているのかのどちらかかな・・・。
 曲が終わった時「ブラボー」という数箇所からの歓声と大きな拍手。
ほんとに良い「ツィゴイネルワイゼン」を聞いた。


 アンコールで「ほんまもんのテーマ」「愛のよろこび」が演奏されコンサートが終了した後、今回もCDを買った人にサイン会があった。ファンサービスを彼女は欠かさない。
僕もその列に並び彼女に一言「とても良かったですよ」と声をかけたら彼女は笑顔で「ありがとうございます」。
その後ぬまくまサンパルホールのこととHPでコメントしていることを話し、そのついでに名刺もちゃっかり渡してきた。
もしもここを見てくれてたら嬉しいなぁ・・・・


 


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