小山実稚恵<チャイコフスキーピアノ協奏曲第1番>を聴く


 2012年6月29日(金)。リーデンローズに日本センチュリー交響楽団がやってきた。

  

そしてそのプログラムは
 1.チャイコフスキー:歌劇「エフゲニー・オネーギン」作品24より”ポロネーズ”
 2.チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23
 3.ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界より」
  指揮 :小泉和裕 (日本センチュリー交響楽団音楽監督)
  ピアノ:小山実稚恵
となっていた。

私はこの演奏会が発表されたと同時にチケットを購入。
なんといっても小山実稚恵さんは自分が今日本で一番聞きたいピアニストと言っても良い人だからだ。

もともとCDでお気に入りだった小山さんなのだが、2007年2月、リーデンローズで行われたピアノリサイタル<音の旅>を聞いたとき、ますます本物だと思うようになった。特にそのときのムソルグスキー「展覧会の絵」は大迫力の演奏で鳥肌が立った。
その小山さんのチャイコフスキーのピアノコンチェルト1番を生で聞けるとは、このチャンスを逃す手は無い。
おそらくこの曲を弾いたら一番似合う日本人ピアニストじゃないだろうか。

チケットは前から7列目のほぼ中央をゲット。近すぎず遠すぎずのなかなか良い席だ




当日

会場の入りは7〜8割程度だったろうか、思っていたよりも多い印象。超有名曲ばかりだから多かったのか、S席で4000円という価格が広響並の安さだったからか・・・・
逆に観客の側のレベルが心配になる。

日本センチュリー交響楽団というのは古い人間からするとあまり馴染みが無かったのだが、ウィキペディアで調べてみると、前身は吹奏楽団の「大阪府音楽団」。1990年に「大阪センチュリー交響楽団」として大阪府運営のプロオケとして設立。
ところが橋下府政の下2011年文化振興基金が打切りとなり、この楽団は運営資金のうちの4億5000万円をその文化振興基金から賄っていたため運営がままならなくなり、民営化に向けたスポンサー探しを現在行っているということのようだ。
その流れを受けオケの名前も「大阪〜」から「日本〜」に変えたのだろう。
日本のプロオケで経営が安泰というところは数えるほどしかないだろうが、大阪は特に「大阪フィル」「大阪シンフォニカ」「関西フィル」「センチュリー」と4つの楽団があるので運営が厳しいことはこの上ない。今後どんどん地方に出て演奏をしていく必要がある。
そんな折、今年4月に近畿産業信用組合が年間2億円を支援する方針を出している。その話が纏りそれでなんとか運営できれば良いが・・・


さて演奏

1曲目は「エフゲニー・オネーギン」のボロネーズという短い曲。オケの音慣らしという感じであっという間に終わった。あんまり音が揃ってないが大丈夫か?・・・
そしてすぐに2曲目のチャイコのピアコンのためにピアノの準備と席の移動が始まる。
なんかさっきコンサートが始まったばかりなのに、ゴソゴソとピアノを移動させてまたコンサートが中断するというのは気持ちが殺がれてあんまり感じがよくない。

 準備が終わり、小山実稚恵さんと指揮の小泉さんが登場する。
2曲目、期待のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の始まりだ

棒が振り下ろされ超有名なホルンの出だしに続いてピアノの伴奏が始まる。
小山さんの演奏はちょっとおとなし目、分散和音もすべて伴奏に徹する感じでスタートした。
しかし最初の前奏部分が終わるとだんだん本領を発揮してくる。
多少のミスタッチはものともせず感情豊かにアクセルを踏んでいく。
特に1楽章のカデンツァの部分はさすがと思わせた。

1楽章が終わったときに拍手。うーん・・・今日の福山の観客はレベルが低いかもと半分予想してたけど、やっぱりか(涙)
曲の終わりじゃないことを知ってて故意に拍手したようにはどうしても思えなかった。
しかしそれだけじゃなくて携帯電話の着信音がこの日2度も鳴った。そのつど気分が殺がれる。ということは演奏者の気分も殺がれる。注意の足らない僅かの人(大体犯人は節操の無いおばちゃんなんだけど)のために福山市民のレベルが疑われるのはとても悲しいことだ。
最近のホールでは携帯が自動的に圏外になる装置が付いているところが増えたが、リーデンローズもそうしないとどうしようもないかもしれない。

さて2楽章が始まる。ピアノが叙情性豊かに響く。オケのほうもだんだん調子が出てきているようだ。
3楽章に入って小山さんはアクセル全開。オケに負けない様に鍵盤をたたく。これだけの音量がピアノで出るのかというくらいで、凄くパッションを感じる。フィナーレに向かっての怒涛の演奏は聴いていて本当に涙が出てきた。
そして最後には彼女の指先は赤くなり、腕の筋肉そしてペダルを踏む足が震えていた。
逆に言えばそれくらいのパワーを必要とされる曲だとも言えるのだろう。
感動した!
鳴り止まない拍手に小山さんのアンコールはラフマニノフの前奏曲Op32。美しい調べでいつまでも聞いていたいと思う。
本当に小山さんのピアノは素晴らしい。アンコールが1曲だけというのがとても残念だった。

20分の休憩が終わり、3曲目のドボルザーク交響曲第9番「新世界より」が始まる
誰もが良く知っている曲。元気のいい、聞いていて気持ちの良い演奏だった。
アンコールはドボルザークのスラブ舞曲第10番。

日本センチュリー交響楽団は全体的にパワーがあって情熱的な演奏をするというイメージを持ったが、ところどころ木管が弦に埋もれてしまったり、アンサンブルにおやっと思うところがあったりで、正直なところ最近の広響のほうがレベルが高いんじゃないかと思ってしまった。もしや福山の観客のせいでオケの気合が入っていなかったのかも知れないが・・・



コンサートが終わって、小山実稚恵さんのサイン会が有った。
僕は今回は彼女のチャイコのピアコンのCDを買って長い列の後ろに並んだ。
彼女は5年前とほとんど変わらずストレートの長い髪で若々しい。そして終始笑顔でお客さんに対応している。
今ではチャイコフスキー国際コンクールに続きショパン国際ピアノコンクールの審査員までする地位の人なのに、以前と変わらずとても謙虚な方に感じられた。
自分のサインの番が来て、僕から演奏のお礼とまた福山に来てくださいというお願い。
彼女の腕の筋肉は凄いのに、握手をしてもらったその手は想像以上に小さかった。