小山実稚恵<音の旅>をきく


 2007年2月3日節分の日、小山実稚恵がリーデンローズにやってきた。
「音の旅」と称するピアノリサイタルシリーズの第3回、今回は「うつりゆく情景」<萌黄色:自然の情景・なつかしき・キエフの大門>というサブタイトルがついている。
実はこれまでリーデンローズでこのシリーズ既に2回のコンサートを彼女はこなしてきている。
僕が今回のコンサートを選んだのは日程の関係もあるのだが、プログラムに「展覧会の絵」という大曲があったからだ。
この難曲を彼女がどう弾きこなすのかとても興味があった。

小山実稚恵は素晴らしい経歴を持っているピアニストだ。
1982年チャイコフスキー国際コンクール第3位、1985年ショパン国際ピアノコンクール第4位と2大コンクールに入賞を果たし、1986年第12回ショパン協会賞を受賞。また1994年モスクワで第10回チャイコフスキー国際コンクール、2004年にはパリでロン・ティボー国際音楽コンクールでの審査員もつとめている。
そして2005年度には文化庁芸術祭音楽部門の大賞を受賞。名実ともに日本を代表するピアニストである。

考えてみれば彼女がデビューしてもう20年以上経つことになる。
僕の彼女の音楽との出会いは、僕がオーディオに熱を入れていた頃、1994年彼女の「ラベル作品集」が確かレコード芸術誌で演奏・録音とも高評価ということからCDを買ったことに始まる。
日本人ピアニストのCDはさほど持っていない僕だが、チェックしてみたら彼女のCDが既に5枚家にあり、なんと一番多い数だった。仲道姉妹ほど美人でもないのに(失礼)5枚もあるとは自分でもビックリ(汗)
そもそも彼女のCDに対する印象が良いからに他ならないが、その理由としてはとても音楽的であると同時に女性ピアニストにある線の細さが無くてバランスがいいこと、音色が豊かなことがあげられる。
福山で彼女の演奏が聞けるというのはまたとない機会だし、男でも大変難しい「展覧会の絵」は絶対の見もの(聞きもの?)だと考えた。


 当日、さてこのコンサートにどれだけ人が入っているのかと思ったが、さすがにS席(指定席)は半数の入り、1000人弱といったところだろうか。
そのS席だが向かって左側がほとんどが埋まっていて、右側に空席が多い。
ピアノのコンサートはピアニストの手元を見たいが為に一般的にこういった傾向があるが、今回僕は前回の反省を忘れずに右側45度までの範囲の席を取るようにした。広響の定期演奏会の時にも書いたことだが、右側の席はピアニストの表情が良くわかるといううえに、ピアノの音は右手45度に向かって広がるので一番豊かないい音で聞けるということがある。左側に座ってしまうとホールの反響音の方が気になるのだ。
今回は運よく理想的な席をゲットすることができた



 当日のコンサートプログラムは
ハイドン/アンダンテと変奏曲 へ短調 作品83 Hob.XVII-6
ウェーベルン/ピアノのための変奏曲 作品27
シューマン/子供の情景 作品15
ムソルグスキー/組曲「展覧会の絵」
 という演奏曲目となっている。

 開演となり、小山実稚恵が今回のコンサートのイメージカラーである萌黄色の衣装で現れた。一見気が強そうだが優しい笑顔。お辞儀の仕方ははにかんだ感じもあって好印象(^^;;

ハイドンの演奏が始まった。前の3曲は聞き込んだことが無いので良くわからないが丁寧な演奏で柔らかい音色だ。
シューマンは叙情的な演奏でまた心地よい。なのにどうもffでのピアノの歪む音が気になる。
彼女の演奏はダイナミックレンジが広くスケールが大きいが、どうもピアノがそのパワーについていっていない気がする。リーデンローズのスタインウェイはこんなだったか?これまでのコンサートでは一度も感じたことがなかった歪みだ。先日の三舩優子のモーツアルトの時も感じなかった。
これでは展覧会の絵の演奏では相当歪むんじゃないかな・・・

休憩のあと「展覧会の絵」の演奏が始まった。
この曲は相当な体力を必要とする曲。最後キエフの大門は特にffの連続だがそこまでこの小さな身体が持つんだろうか・・・・
プロムナードのfからいきなりピアノが歪んでいる。これはこのピアノの調子が悪いのかそれとも彼女のパワーが凄いのか?・・・・
圧倒的なパワーの中で曲は進められていく。速いパッセージもテクニックが凄い。腕の筋肉がモリモリ目立つ。疲れが出始める後半、多少のミスタッチがありそこから折れてしまうんじゃないかと心配する場面もあったがものともせず盛り返し、彼女は結局最後まで圧倒的な迫力の演奏で弾き切った。

一瞬の静寂のあとの大きな拍手。
鳥肌が立つ演奏だった。

アンコールは福山最後ということでサービスもあったのかお得意のショパンの夜想曲・エチュードなど5曲ほどが演奏された。
このショパンも素晴らしく、鳥肌が何度も立った。「革命」ではブラボーの声も・・・
拍手は鳴り止まず、最後は「別れの曲」。
この曲を聞いて福山の聴衆もやっと納得したのかコンサートも終了になった。



ピアノのコンサートでここまで興奮したのは久しぶり。
彼女が現在も現役ピアニストとして日本を代表する人だということを実感することができたコンサートだった。



 
コンサートが終って6枚目の彼女のCDを手にしてサイン会へ
演奏のお礼と是非また福山に来ていただけるようにとお願い。
握手した彼女の手は紛れも無いピアニストと感じる手だった。