人間工学から考えた 楽な山の歩き方2                              2025/05/05
 

昨今youtubeを眺めてみると相変わらず自分の登山スタイルから歩き方を他人に押し付けるような動画が多くて壁壁とする。
前回も「楽な山の歩き方」についての解説をしたわけだが、今回はもう少し人間工学的に考えた楽な山の歩き方についての考察をもう一度進めてみようと思う。
あくまで”速く”歩く方法ではなくて”楽に”歩く方法という観点で説明したい

 

関節を曲げれば曲げるほど筋肉への負担が大きくなる

この件は前回も記載したとおりで間違いない現実だ。
人間は二足でまっすぐに立ったときの体勢がデフォルトで一番楽な体勢なわけで、歩く際もその同じ体勢でいることが身体への負担が一番少なくなる。
ただそのままでは前に進めない。どれだけ最小限の動きでどれだけ負担を減らしていくか、効率の良い体の動きが必要になるわけだ。
頭から腰・膝・足の裏に至るラインが一直線であることがまず基本であり、ここから
1.腰を曲げれば腰に負担がかかり
2.足を上げれば太ももに負担がかかり
3.足首を曲げればふくらはぎに負担がかかる
といった具合になる。


1.腰を曲げない
 前かがみになると腰に負担がかかる。
一度静止した状態で片足を前に出し少し前かがみになってそのまま1分でも30秒でもそのまま静止してみてもらいたい。
あなたはだんだん疲れてきて腰に負担がかかっているのが実感できるだろう。
前かがみがまさに腰痛の原因だ。
しかし歩く際には前かがみになる要素がたくさんある。
足元をしっかりと見ないといけないわけだし、先を急ぐと重心を前にもっていくことに気を取られる。ストックを持っていると手を前に出しがちになるなどだ

対策
・背筋を伸ばし肩を引き顎を引きへそから進むような感じで歩く。
・足元を見る際は下を覗き込まないようにする。
・歩幅を狭くして一歩あたりの高低差を少なくする。
・上りの際のストックは身体の横もしくは後ろ側に突く。
・下りの際のストックは降りる足の着地地点あたりに突き、あまり前には突かない



2.足を上げない(膝を曲げない)
 足を上げないと言っても上げないと実際には歩けないので、現実的には一歩当たりの足上げがなるべく少なくなるように歩くということになる。
足を高く上げれば上げるほど太ももへの負担が加速度的に大きくなるというのは前回説明した通りだ。
高さ20cmの段を10cm二回に分ければふとももの仕事量は約2割減ることになる。
実際一度静止した状態で片足を前に出し徐々にしゃがんでいってみてもらいたい。
しゃがめばしゃがむほど太ももへの負担と膝への負担が大きくなっていくことが実感できると思う。

とはいえ、実際にどのくらいまで足上げを少なくどのくらい小股で登ればいいのかということになるだろう。
ここで一般的なコースタイムを例にとって考えてみると、100m登るのに20分というのが基本になっているようだから
 (例) コースタイム= 水平距離A(km)×20(分)+ 垂直距離B(100m)×20(分)
これは1分間で平均5m登ればよいことになる。
この数値は仮にあなたが80歩/分のペースだとすれば、
コースタイムをまもるために一歩で登らなければいけない高さはわずか6.25cmだ。
20cmの高さの階段だと3歩で登る位のペースということになる。

対策
道の斜度に応じて歩幅を変えて、一歩で登る高さ10cm未満を目安に少しずつ登る
斜めに登って一歩の高低差を少なくする
階段の脇を使って一歩の高低差を少なくする
尚、私の場合自分の目線の高さまで到達するのが15秒以下というのを一つの目安にして登っている。


膝痛について
前回も説明した通り、
膝が痛くなる原因は曲げた上側の膝がつま先よりも前に出てしまうことに起因する。特に下りの場合にそういったことになりやすい。
では下る際にどうすれば膝がつま先よりも前に出にくくなるだろうか

対策
・歩幅を狭く、もしくは斜めに歩くなどして一歩の高低差を少なくする。
・高い段は近くに着地する。
・特に高い段は横を向いて降りる
・つま先から降りて少しでも早く位置エネルギーを吸収する。(ハイカットシューズだと難しいが)
・ストックを利用し膝の負担を軽減する。

※ 尚、ハイカットシューズで斜面を下っていくと足首が直角に固定されるぶん膝が前に出ていきやすく、結果的に膝を痛めやすいと私は思う。


3.足首を曲げない
 ふくらはぎは足の主な筋肉の中でも弱い箇所なので、特に対策が重要になる。
ふくらはぎの筋肉を使わないための要素は二つある。
A)足首を曲げないこと(=つま先上がりのところに足を置かないこと)
B)足首に負荷をかけないこと(=つま先に体重を乗せないこと)
このふたつだ

A)足首を曲げないこと(つま先上がりのところに足を置かないこと)
まず一度高い椅子か何かに座って足をぶらんとさせてみてほしい。
おそらく靴の裏は水平から10~15度くらい下を向いていると思う。
これが人の足の基本的な角度でデフォルトだ。
そこから足首を曲げれば曲げるほど足首に負荷がかかることになる。
次につま先上がりのところに立ってみて、つま先下がりのところにも立ってみてその二つを比較してみてほしい。
つま先上がりのところにじっと立っている方がずっと疲れると思う。
これがつま先上がりのところになるべく足を置かないという第一の理由になる
さらにつま先上がりの状態から前に進もうとした際はつま先側に体重が乗りやすいというだけでなく、進行方向と逆側に力が働くこともお分かりだろう。
これが登りの際つま先上がりのところになるべく足を置かないという第二の理由だ。
特に足首を使って走るトレランをする人(ローカットシューズの人)にとっては重要なポイントとなる。

対策
・登りの際、つま先上がりのところに極力足を置かない
・避けられない場合は、斜めに歩く・外股で歩く・横向きに歩くなどする

※ 登山靴やトレッキングシューズは衝撃吸収という意味合いで必ず少しかかとの方が厚くなっているが、これはつま先上がりにならないことにも貢献している。かかとがつま先と同じ高さの靴はどうしても疲れやすくなる


B)足首に負荷をかけないこと(つま先側に体重を乗せないこと)
これは単に立った状態からつま先立ちしたらどれだけ疲れるかということと同じになる。
普段平地を歩く際に人は後ろ足で蹴って前に進もうとするわけだが、その蹴る一瞬は後ろ足に体重が乗った状態で、ふくらはぎに負荷をかけていることになる。
トレランでは当たり前でも通常の登山ではそれは余計な行動だ。

対策
後ろ足で蹴って歩かない
・その方法としては、後ろ足のかかとを上げるタイミングを遅らせること。後ろ足のかかとが上がってから前足を着地させるのではなく、前足の着地と同時に後ろ足のかかとが上がるという感じ。イメージとしては後ろ足のかかとを上に抜く感じで歩くとよい。歩幅が短ければ易しくなる。
・つま先側に体重を乗せないように注意する。

※ ハイカットシューズであれば後ろ足で蹴ること自体難しく、また仮に体重がつま先側に乗っても足首が固定されるぶん足首にかかる負荷が軽減される。したがってふとももの疲労は少なくなる傾向になる。



以上となるが、対策は結構重複している部分があるので整理すると
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① 背筋を伸ばし肩を引き顎を引いて歩く。       (登り・下り)(腰)
② 足元を見る際は下を覗き込まないようにする。    (登り・下り)(腰)
③ 歩幅を調整して一歩あたりの高低差を10cm未満にする。(登り・下り)(腰・膝・足首)
④ 急傾斜では斜めに歩く。外股で歩く。横向きに歩く。 (登り・下り)(膝・足首)
⑤ 高い段を下る際は近くに着地する。            (下り)(腰・膝)
⑥ 特に高い段を下る際は横に向いて降りる。         (下り)(膝)
⑦ 下りはつま先から着地する。               (下り)(膝)
⑧ つま先上がりのところに足を置かない。          (登り)(足首)
⑨ つま先側に体重を乗せない                (登り)(足首)
⑩ 後ろ足で蹴って歩かない。             (登り・下り)(足首)
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特に③と⑩は重要だと思う




ストックの使い方

ストックは疲れを軽減し転倒を防止するのに登りの際にも下りの際にもとても有効で、膝を痛めるのを防止するとともに腰痛を防止するという効果もありストックを利用しない手はないと思う。特にダブルストックは有効で、自分もいつも利用している。
ただこのストックの使い方についてもyoutubeを見ているといろんな方がいろんな説明をされていて、自分から見ると納得できるものとできないものが混在している。

実際どんな使い方が一番有効なのか
ストックも力を入れすぎると腕及び上半身が疲れてくるということがあり、山歩きでは結局一番省エネとなる使い方が望まれることになる。

ストックの持ち方
これは基本通りストラップの下側から手を通してストラップと一緒に握るタイプの持ち方を推奨する。この持ち方はしっかりとストックを握らなくとも体重をかけることができてとても省エネになるからだ。さらにストックの長さを増すために天を握りなおすことも簡単にできる。
また、落としにくいということもある。私は以前単に持っていて躓いた際に誤ってストックを川に流してしまったことがある。ストックは中空なので水に浮いてしまいそのまま流れていって回収できなくなってしまった。大変申し訳ない話だが、今頃はおそらく太平洋に沈んでいることだろうと思う。この時以来ストックは手から離れにくい基本の持ち方を心掛けている。

力の方向
力学的にストックの力が及ぶ方向は必ずストックが突いた先端からストックを持つ手首に向かっての方向になる。
ストックの先端が手首よりも前側であれば力は上方向プラス後退方向になり、ストックの先端が手首よりも後ろ側であれば上方向プラス前進方向ということになる。
ということは、(身体のバランスをとるときは別として、)登るのであれば人が力を入れたときにストックの先端は手首よりも後ろ側にないといけないし、一方下りでブレーキをかけるのであればストックの先端は手首よりも前側にないといけないことになる。
これは皆さん感覚的にもわかるだろう。

効率的な力のかけ方
では次に小さな力でどう大きな力(推進力)を生み出すか
体操の鉄棒や吊り輪を思い出してほしい。鉄棒に乗った時に腕の方向はどっちに向いているのが一番楽なのか。
それは肘が伸びて肩から手首までが真下を向いているときだろう。腕が前を向いていたら自分の体重を支えることができない。
肘が曲がっていたらどうだろう。それは懸垂状態で私は1分も我慢できない。
吊り輪で十字懸垂ができるのは限られた人だけだ。でも鉄棒と同じように上に真っすぐ乗るだけなら多くの人が耐えることができるだろう。
つまり自分の体重を支えられるのは肩から腕が真下に向いて肘が伸びた状態であることがわかる。
当然これと同じことがストックでもいえる。
一番大きな力が発揮できるのは肩からストックの先端に向けて肘と手首が真っすぐ一直線状態、もしくはそれに近い状態になった時ということになる。

階段を登るとき
上記のことから階段を登るときを想像してほしい
まさに上の段に登ろうと足に力を入れているときにストックが手首より後ろにあってストックの先端から肩までが一直線に近い状態になるのが理想だ。
つまり階段では、ストックの先端は下の段にあって手首は腰の横。そしてストックの長さは上の段に到達したときに手が伸び切ってちょうど届くくらいの長さである必要がある

このストックの使い方にはさらなるメリットもある。前方への推進力が増すので前傾姿勢になりにくく、腰痛が発生しにくいということにもなる。

登りの緩斜面では
このように階段や急斜面を登るときは左右のストックを同時に突いて押し上げるように登るのが良いが、緩斜面の際はテンポよく歩き腕の力を効率よく温存したい。
ストックを持たない時と同様に平地で普通に手を振って歩くそのままの歩き方でストックを軽く突いて歩くのが良く、ストックを握った手首が腰の近くに来る間だけ少し前方に押し出す感じにする。腕を前に振り出すとどうしても人は前かがみになってしまいやすい。そうすることで、無駄に腕を前方や上方に振り上げる必要もなく、腰痛も防止しながら腕の疲れを極力抑えることができる。
尚、ストックをつく位置はその長さにもよるが、必然的に身体の横からやや後ろ側になってくるのではないかと思う。
また、その際にもしストックがスリップするようであればキャップを外してスリップを防止する

階段を下るとき
階段を下るの際は上の段に立って前かがみにならない状態で下の段の足の着地地点の横あたりに二本のストックを突いてから、足はつま先側から降りていく。
もしストックが届かないようならストックの天を持つないしストックを伸ばして対応する。着地地点は膝を痛めないようあまり遠くない方が良い



具体的な使用方法は前回と同じだが再掲載すると
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① ストックの持ち方はストラップの下側から手を通してストラップごとストックをつかむ
② ストックの長さは階段に立った際に、ストックを持ったまま手を伸ばして下の段にちょうど届くくらいの長さに調整するのが良い
③ 登り通常時は、普通に歩くのと同じ手の振り方で、ストックを握った手首が腰あたりに来た時に少し前方に押し出す感じ
④ 階段もしくは高い段を登る際は、両側のストックを足元にまずついてから上の段に登り、同時に手で(腰の横で)押し上げるようにする
⑤ 下りの際はストックを下の段に先についておいてから足を下ろし、着地の衝撃を和らげると同時に上側の足の負担を軽くする。このとき前かがみの姿勢になるようであれば、ストックの長さを調整するかストックの天を持って対応する
⑥ 特に下りではストックをつく位置が滑らないところであることに毎回充分気を付けること
⑦ ストック先端のキャップは道を守るためのもの。本来キャップが無い方が滑りにくいので、TPOに合わせること
⑧ 谷側にストックをつくときには絶対に体重を乗せないようにすること。基本は極力使用しないこと。(滑ったら滑落する)
⑨ 梯子や鎖など手を使って昇り降りする必要があるときは、面倒でも一旦ストックをしまうこと

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尚、上記についてはあくまで登り下りの際に足の力を補助することを目的とした際のストックの使い方で、バランスを保つおよび転倒を防止する使い方に特化しての説明ではない。
歩く際の身体のバランスや転倒防止は最重要なので状況に応じて対応していく必要がある。
特に注意を促したいのは、谷側斜面にストックは使用しないこと・下りの際には絶対にスリップしない場所にストックを突くことで、さらには木道以外ではストックのキャップを使用しないことも併せて主張したいと思う。






※ ストック(トレッキングポール)について私はこれまで6本の購入経験がある。全てI型の2本セットのもので、1本は川に流され、1本は曲がったために破棄し、1本は衝撃吸収機能が気に入らなくて破棄し、1本は4段式で伸縮が面倒になって他人に譲り、現在は折り畳み式のものが2本(2セット)残っている。残っている2本はいずれも中華製のノンブランド品だ。
ストックというのは結構ピンからキリまであっていろんなタイプ・機能があり、値段も2本で3000円前後から3万円前後までと幅広い。
そのなかで私のオススメのストックを公表するとすると、
I型の折り畳み式でアルミ製のもの。長さ調整が付いていて衝撃吸収機能なしのamazonで2本セット4000円前後のものということになる。

私は当初は伸縮性のものばかりを使用していたのだが、折り畳み式を使うようになったのはやはり長さの点からだった。
リュックのサイドに収めようとするとどうしても縮長が400mm以下のものが欲しくなる。その点から折り畳み式を一度買ってみようということにした。
しかし使ってみるとこれが便利で、イチイチ回さなくても引っ張るだけで一瞬で長くなって使用状態になるし、使う際の安心感が結構ある。
それというのが伸縮式のものは着地の際の負荷で急にスポンと短くなったという事例を聞いたことがあるからだ。これは使用の都度伸ばしたり縮めたりするせいで固定部分が甘くなったためとも思われるが、全ての固定部分について毎度メンテナンスするわけでもないし、実際急に短くなってしまう可能性があるとなると転倒と隣り合わせだと考えざるを得ない。
一方で折り畳み式であれば長さが変わる固定部は調整部分の一か所だけで使用の都度伸縮させるわけではないし、仮にその固定部が緩んだとしても縮む長さはわずかで済む。
私は川を渡渉する際に二本のストックを川に刺し体重をそれに預けて対岸にジャンプするなんていうことがある。渡渉中の岩飛びで川にストックを刺して身体のバランスを取るなんて言うくらいは頻繁だ。その時に体重を安心してストックに預けられるかどうかというのは重要な問題。
本来ストックは仮に曲がったりしても使えるし、場合によれば壊れて使えなくなっても最悪無しでも構わないけれど、運用中に突然の事故の危険があるのだけは勘弁願いたい。
カーボンのストックは50g程度軽くなってとても高価になるわけだが、変な力が加わった時にポキっと折れる危険があるとのこと。アルミなら曲がるだけで急には折れない。

また、長さ調整については絶対あった方が良い。私は低山トレーニングではストックの長さを1cmおきに調整している。2cmも違うといつものルートを登っていて感じが結構違ってくる。
ただ購入時注意すべきは(折り畳み式は調整範囲が狭く)調整範囲95-110や110-130などという長さ違いのストックがあるということだ。予めどのくらいの長さが自分にあっているのかを購入前に知っておく必要がある。(一般的には身長180cmの人で125cm前後、160cmの人で105cm前後といった感じが普通かと思うがこれは個人差あり)

衝撃吸収機能はストックを突いたときに逆にグニャグニャする感じがあるし重くなるだけで良いことがない。
以上はもちろん私の個人的な感覚と意見なので、違った意見の人もいようかと思う。
ただこれが私の現実なので参考になればと思って記載した。