【はじめに】

(事務局より:この物語は一部事実に基づくフィクションです。)

この物語の主人公は大学生の女の子、川田みりちゃん(21)。
茨大学の文学部国文学科に在籍し、中世文学を専攻している3回生。
仲良しの友達にも恵まれ、同じ大学の院生、真木悟くん(24)との付き合いも順調。
サークル活動やバイトに励み、時にはレポート提出に頭を悩ませという、ごくごくありふれたキャンパスライフを満喫中。
数年前、お父さんの仕事の関係で東京から岡山の総社市に引っ越してきたので、就職を機に、勝手知ったる東京での一人暮らしに憧れている。
最近の趣味はといえば、やっと自分のPCを持ったのでブログを始めたこと。

そんな夏の気配が近づいた6月末、最近忙しそうにしていた悟くんから久しぶりの連絡を受けたみりちゃん。
ところが、その連絡がちょっと変わっていて…。

 

一方。
悟くんの所属は、文化財保存科学研究科という何やら難しそうな研究室。
ここでは春先から、悟くんの地元井原市にある文化財の特別な調査が行われていた。
それは芳井町の重玄寺に伝わる宝物の鑑定作業だったのだが、この重玄寺、実は水墨画で有名なあの雪舟の終焉の地ではないかといういわれがあり、宝物の中には雪舟に関連する貴重な品もいくつかあった。

鑑定の中心となったのは
まず「十六羅漢図」と菩提達磨を描いた「緋衣達磨」。
「緋衣達磨」と「十六羅漢図」の内の二幅はこれまで伝雪舟とされていたが、鑑定の結果重要視されたのは、それらとは別の四幅の羅漢図だった。
この四幅は、雪舟派か、雪舟派の影響を受けた狩野派の作との見方が強まった。

次に、同じ芳井町にある天神社に伝わり、雪舟が重玄寺に持ち帰って修復したとされる「菅公図」。
こちらは損傷が著しく修復も難しいことから、レントゲン撮影し写真を鑑定することとなったのだが、この度、新たに雪舟の裏書きと思われる漢文が確認され、新聞・テレビでも取り上げられるほどの大ニュースとなり、より入念な調査が行われた。

そして、重玄寺を開山(開基は足利義将)した千畝周竹禅師を描いた一幅。
こちらは雪舟が描いたものに間違いないため、修復作業のみ行われた。
こうして、地元という思い入れもあって、悟くんも熱心に調査に加わっていたため、しばらくみりちゃんと会えない日が続いていた。
東京暮らしに憧れるみりちゃんのことを常々心配している悟くん。
二人の未来予想図を描く悟くんとしては、みりちゃんにはもっと岡山の良さに気づき、自分の研究についても理解して欲しいところ。

そんな二人の、忘れられない夏が始まる。