日本一の美人の湯ってどこ?           美肌温泉の謎に迫る
 
 
 先日、「日本最古の湯」を調べていくうちに、ぶち当たったのが「日本三大美人の湯」。
これってその温泉に入ったらきれいになるってことに違いない。
それなら一番きれいになる温泉っていったいどこの温泉なんだろう?
「湯上りの浴衣美人というのはなんともいえず色っぽいけど、それなら日本で一番美人の湯に行かないと。」
などと良からぬ・・・・いやいや至極真面目に今回も調査してみることにした。
まずどうやって美人の湯の評価をするかだ。
「美人の湯」といわれる限りは、お風呂に入ったら「つるつる色白のもち肌」になるってこと。ということは「日本三大美人の湯」には成分に何らかの共通点があって、その成分量で優劣がつけられるはずだと単純に考えた。
ついでに「日本三大美肌の湯」やその他の昔からの美人の湯と言われているところも一緒に調べてみることにする。
 

目次

1.美人の湯の泉質は
2.美人の湯は肌に悪い?
3.泉質名と内容
4.イオンについて
5.わすれてはいけないこと
6.結局三大美人の湯はどうだ?
7.「温泉の科学」におけるツルツル度
8.まとめ
9.追記−温泉の泉質と効能
 

  

美人の湯の泉質は?
日本三大美人の湯
温泉名 泉質 pH 源泉温度(代表)
群馬県 川中温泉 硫酸塩泉
(石膏泉)
8.4 35℃
和歌山県 龍神温泉 ナトリウム炭酸水素塩泉
(重曹泉)
7.8 46℃
島根県 湯の川温泉 弱アルカリ性単純泉 8.4 48℃
日本三大美肌の湯
温泉名 泉質 pH 源泉温度(代表)
佐賀県 嬉野温泉 ナトリウム炭酸水素塩泉
(含食塩重曹泉)
8.6 90℃
島根県 斐乃上温泉 アルカリ性単純泉
or放射能泉
9.2 26℃
栃木県 喜連川温泉 含硫黄−ナトリウム・カルシウム−塩化物泉 7.6 50℃
その他古来の美人の湯
温泉名 泉質 pH 源泉温度(代表)
静岡県 大沢温泉 アルカリ性単純泉 9.2 51℃
岡山県 奥津温泉 アルカリ性単純泉 9.2 42℃
佐賀県 古湯温泉 アルカリ性単純泉 9.3 36℃
これをみると、なんといろんな泉質があることがわかる。共通点はアルカリ性ということだけ。
(pHは0〜14の範囲があり、pHの数字が小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性となる。pH7が中性)
 とするとpHが大きいほどいいのか?
しかし日本の温泉を調べるとpH2〜pH11の範囲の温泉が存在し、pH11のような強アルカリの温泉はこの有名な美人の湯の中に無い。

ちょっとまてよ!そういえばアルカリイオン水の装置でできた弱酸性側の水は肌にいいので捨てずに顔を洗ったりしたらいいと確か説明書に書いてなかったか?
まずそこから確かめてみよう。

 
美人の湯は肌に悪い?
上記のように美人の湯といわれるところはほとんどがアルカリ性となっているのだが、
それに対してちゃんとしたメーカーからこういう風なまるで反対の説明がある

某有名洗剤メーカーのHPより
  • 健康な肌は弱酸性です。
    物の性質には「酸性」「アルカリ性」その中間の「中性」といった種類があります。このうち、健康な肌の状態は弱い酸性(弱酸性)を保っています。
    肌の一番外側にある角質層は厚さわずか0.02ミリと、リンゴの皮より薄いのですが、からだを守ってくれる大事なバリアです。健康な肌の表面は弱酸性に保たれており、外的刺激や乾燥から肌を守ってくれます。また、ばい菌等が増えるのを防いで、さまざまな病気(感染症)からからだを守るはたらきもあります。
  • 肌にやさしい弱酸性の洗浄料です。
    素肌と同じ弱酸性なので、洗っている時に肌本来の弱酸性の状態をくずしません。素肌の大切なうるおいを守りながら、皮脂や汚れだけをしっかり落とすという特長を持っています。だから、洗った後の肌も外的刺激や乾燥に強い弱酸性の健康な肌を保ち続けることができるのです。
某有名メーカー製アルカリイオン水製水器のHPより
  • 酸性水には、肌をひきしめるアストリンゼント効果があるので、美容にお使いください。
これはどういうことだろうか?美肌の湯は肌に悪いのか?

僕はマルチ商法も含めメーカーの宣伝(売る為のもの)は素直に考えないことにしているのだが、まじめに考えてみて以下のことが言える。
  1. 人間の身体の起源は弱アルカリ性。
    生命の起源は海だが海は弱アルカリ性。赤ちゃんが生まれる前に入っている羊水も弱アルカリ性。だから赤ちゃんの肌も産まれたときは弱アルカリ性。人間の体内も弱アルカリ性。身体の中で酸性なのは皮膚と消化器官だけ
  2. 老廃物は酸性
    老廃物である脂肪酸も酸性。
    人間の細胞は当然アルカリ性だが人間の皮膚は下から生まれ変わっている。アルカリ性の細胞(タンパク質)は表面に出てきて死滅して酸性になる。(酸性になると細胞は死滅する)
    人は中性のものを食べるのだが、体内を弱アルカリ性に保つ為に酸性のものを排出していかないといけない。皮膚は放っておくと自然に酸性になってしまう。
  3. 角質細胞
    アルカリ性の水が角質細胞に膨潤し、古くなったNMF(保湿成分)や角質細胞間脂質を洗い流し、新しく産まれかえるのを助ける。
  4. 病気との関係
    皮膚病が治る。(海に入るとアトピーや水虫が治る。海は弱アルカリ性)
    人間は疲れたり病気になってくるとpHが下がる。(酸性になる)
  5. 効果
    アルカリ性 → 肌を柔らかくする。洗浄能力が高い(酸性を中和)。
    酸性     → 肌を硬くする。洗浄能力が低い。
  6. 言い回し
    素肌に大切な うるおい = 脂分 → 老廃物
    肌をひきしめる = 肌を硬くする
メーカーの方からの反論もあるだろうが、いろんな理屈を並べたところで、結局長年実績のある温泉の効果の方がよほど信頼性が高いと思う。
奥津温泉に住むおばあちゃんは今でもピチピチの肌だそうだ。
美肌ってのは赤ちゃんのような肌のこと。新陳代謝がいい皮膚であることが第一だ。

やっぱりアルカリ性の温泉が美肌に良いと僕は確信する。

尚、pH(水素イオン濃度)と言い方の関係は
pH 2未満 強酸性
pH 2以上4未満 酸性
pH 4以上6未満 弱酸性
pH 6以上7.5未満 中性
pH 7.5以上9未満 弱アルカリ性
pH 9以上 アルカリ性

泉質名と内容
話を元に戻してアルカリ度だけで美人の湯を決定出来ないとなると、泉質のことを考えざるをえないだろう。
総量
規制
泉質名(旧泉質名) 条件






1
0
0
0
mg
/
kg

塩化物泉 ナトリウム−塩化物泉
(食塩泉)
主要成分にNa+イオンとCl-イオンを含む
ナトリウム・カルシウム−塩化物泉 主要成分にNa+イオンとCa2+イオンとCl-イオンを含む
炭酸水素塩泉 ナトリウム−炭酸水素塩泉(重曹泉) 主要成分にNa+イオンとHCO3-イオンを含む
カルシウム・マグネシウム−炭酸水素塩泉
(重炭酸土類泉)
主要成分にCa2+イオン(またはMg2+)とHCO3-イオンを含む
硫酸塩泉 ナトリウム−硫酸塩泉
(芒硝泉)
主要成分にNa+イオンとSO42-イオンを含む
カルシウム−硫酸塩泉
(石膏泉)
主要成分にCa2+イオンとSO42-イオンを含む
マグネシウム−硫酸塩泉
(正苦味泉)
主要成分にMg2+イオンとSO42-イオンを含む
単純二酸化炭素泉
(炭酸泉)
遊離二酸化炭素を1,000mg/kg以上含む






1
0
0
0
mg
/
kg

鉄泉 鉄(II)−炭酸水素塩泉
(炭酸鉄泉)
主要成分にFe2+ないしFe3+イオン20mg以上とHCO3-イオンを含む
鉄(II)−硫酸塩泉
(緑礬泉)
主要成分にFe2+ないしFe3+イオン20mg以上とSO42-イオンを含む
アルミニウム−硫酸塩泉(明礬泉) 主要成分にAl3+イオン100mg以上とSO42-イオンを含む
硫黄泉 総硫黄(S)を2mg/kg以上含む
酸性泉 水素イオン(H+)を1mg/kg含もの
放射能泉 ラドン(Rn)を10億分の30c.u.(8.25マッヘ)以上含む。または、ラジウム(Ra)塩を1x10-7mg/kg以上含む
単純温泉 単純泉 Feイオン・Alイオン・水素イオン・硫黄・ラドンが上記規定値未満で、泉源の温度が25℃以上のもの
弱アルカリ性単純泉 単純温泉のうちpH7.5以上9未満を示すもの
アルカリ性単純泉 単純温泉のうちpH8.5以上示すもの
なんと面倒くさいものなんだろう。
新泉質名と旧泉質名が表記されることもあるので泉質名だけ覚えるのも大変。実際は溶存物質の種類でさらに二種類以上の名前が重複したりする。
色を付けたところがここまで登場した美人の湯の泉質。
これだけ見ると美人の湯に共通点は無いように見えるがどうなんだろう。
 
 
イオンについて
まず第一に上の表を見ると温泉の泉質表記はNa+(ナトリウムイオン)やCa2+(カルシウムイオン)、Mg2+(マグネシウムイオン)などのミネラルの含有量によって分かれていることがわかる。

 表の上半分はいろいろなミネラルを全部あわせて1000mg/kg以上あれば源泉の温度が低くても”温泉”と名づけられることを意味している。そしてその泉質名はなんのイオン(ミネラル)が多いかによって名前が付けられるわけだが、ひとつの温泉にいろんな泉質名が重複してついている場合も実際には多い。これはいろいろなミネラルが複数含まれているということであって、そしてそこには美肌にいいイオンとよくないイオンが混ざっていている可能性がある。

 表の下の単純温泉はミネラルの合計が1000mg/kgの規定量に達しないということで、源泉の温度が25℃以上ないと”温泉”として認められない。アルカリ性単純温泉は源泉の温度が25℃以上で、イオン総量は1000mg未満ではあるけど、しかし何がしかのイオンを含んでいるからこそアルカリ性になっているということになる。

さて、ここで登場する主なイオンを列記すると

 +イオン ・・・・・・ Na+、Ca2+、Mg2+、Fe2+、Fe3+、Al3+
 -イオン ・・・・・・ Cl-、HCO3-、SO42-

となるが、いったいどれが美肌にいいのか。
アルミ(Al3+)と鉄(Fe2+、Fe3+)を除いてすこし考えてみよう。

まず単純にこれらのプラスイオンとマイナスイオンがくっついてどうなるのかということを考えると

化学式 名称 通称 溶解度
g/l
肌触り 備考
NaCl 塩化ナトリウム 359 × 海から上がるとべたべたする
Na2CO3 炭酸ナトリウム 重曹 294 こんにゃくの製造など
Na2SO4 硫酸ナトリウム 芒硝 280 酸化防止剤、増粘剤、乾燥剤
CaCl2 塩化カルシウム - 828 × 凍結防止剤、乾燥剤、にがり、滑り止め(道路)
CaCO3 炭酸カルシウム 石灰  8 大理石、ベビーパウダー、化粧品
CaSO4 硫酸カルシウム 石膏  2 にがり(タンパク質凝固剤)、建築用途
MgCl2 塩化マグネシウム - 552 × にがり(タンパク質凝固剤)、乾燥剤
MgCO3 炭酸マグネシウム チョーク 231 すべり防止剤(鉄棒など)
MgSO4 硫酸マグネシウム - 363 にがり(タンパク質凝固剤)、乾燥剤

これからわかることは
 ・塩素イオンは肌をべたべたさせるので少ないほうが良い
 ・石灰や石膏は水に溶け難いので、肌についた後に肌の表面から落ちにくい。
 ・マグネシウム塩は吸水性が高いので乾燥後皮膚表面の水分を奪う。
 ・にがりとして使用するものはタンパク質を凝固させ皮膚の角質膜の形成を促す効果がある

ということだ。

その他、ナトリウムイオンは皮膚の水分含有量を増加させ、保湿効果があるといわれている。


つぎに皮膚の余計な皮脂とNAイオンの関係を考えると

   R−COO−H  +  Na   →   R−COO−Na
     脂肪酸                      石鹸

という化学変化を起こすので、
ナトリウムイオンのあるお湯では皮膚の脂が石鹸に変化してツルツルになることがわかる。

なお、これまで触れていなかったが、カリウムイオンKもNaと同様の石鹸効果がある

この石鹸効果についてはClやFは阻害するので(NAイオンと結合しやすい)、このイオンが多いと効果が落ちてくる。塩水で石鹸を使うと泡立たないことからも明らかだ。さらに炭酸イオンやメタ珪酸イオンがあると洗浄助剤として働き洗浄効果がアップする。

これに対しCa2+、Mg2+の場合は2価のイオンなので

  R−COO−H  +  Ca2+  →  (R−COO)−Ca     (注:Mg2+も同じ)
     脂肪酸                 金属石鹸(脂肪酸カルシウム)

という反応となるが、この金属石鹸は触るとべたべたして滑りが悪い。

つまり、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)のような2価のイオンが多いお湯では皮膚の脂が金属石鹸に変わり肌をべたべたさせる恐れがある

ただし、Ca2+イオンやMg2+イオンよりSO2−イオンの方が多いとこの反応は起こりにくい。(分子量からすると3倍以上あれば無難)

昨今、軟水が美肌に良いといわれるのは正にこのことだ(カルシウムイオンとマグネシウムイオンの少ない水のことを軟水と言う)。軟水で石鹸を使えば泡立ちよく、洗浄効果が高くなる

これらをまとめると
アルカリ性(pHが高い) アルカリ塩は皮膚を柔らかくし、皮膚の余分な皮脂を効果的に落とす作用がある
Clイオンの含有量 Clイオン(塩素イオン)が多いとべたべたしやすくなり
Naイオン(ナトリウムイオン)の石鹸効果を阻害する
Naイオン(Kイオン)の含有量 Naイオン(Kイオン)は皮膚表面の保湿効果が高め水分含有量を量を増加させる
皮脂が石鹸にかわりツルツルになる
Ca2+イオン Ca2+(カルシウムイオン)は皮膚表面の角質を形成し皮膚を引き締める
炭酸・硫酸イオンとあわせ石膏・石灰などのさらさらのパウダーとなって肌を一時的に漂白させる。
Ca2+やMg2+等の
2価のイオン
2価のイオンは皮膚のすべりを悪くさせる金属石鹸を発生させる可能性がある(軟水の方がよい)
SO2−イオン SO2−イオン(硫酸イオン)は2価のイオンと脂肪酸との結びつきを阻害するので、金属石鹸発生防止に役立つ
HCO、珪酸イオン HCOイオンや珪酸イオンは洗浄助剤となってNaイオンの石鹸効果を助ける
となる
 
わすれてはいけないこと
ここで忘れちゃいけないのは、表記されている温泉の成分はあくまで源泉でのもので湯船での状態ではないということだ。
お湯は循環して何度も温めたりすると、せっかくのアルカリ度が低下しイオンの含有量も少なくなる。
とくに大きな温泉は循環式が多いので注意が必要。

源泉の湯量が豊富なかけ流しの温泉を選ぶことが重要だ。

 
結局三大美人の湯はどうだ?
美人の湯の泉質をイオンの含有量からもう一度チェックしてみることにする
主なイオンの含有量(単位:mg/l)
  道後温泉
元湯
熱海温泉
16号
草津温泉
湯畑
白浜温泉
白良湯
有馬温泉
金泉
嬉野温泉
第2泉源
龍神温泉
元湯
大沢温泉
大沢3号
            美人の湯 美人の湯 美人の湯
 泉質 アルカリ性
単純泉
ナトリウム
・カルシウム
−塩化物泉
含硫黄
-アルミニウム
-硫酸塩
・塩化物温泉
ナトリウム
塩化物泉
含鉄
・ナトリウム
−塩化物
・強塩冷鉱泉
ナトリウム
−炭酸水素塩
・塩化物泉
ナトリウム
炭酸水素塩泉
カルシウム
−硫酸塩泉
pH 9.1 8.5 2.1 6.7 5.9 8.6 7.8 8.6
Na 72 531 44 5640 18900 500 390 140
5 46 14 244 143 23 9  
Ca2+   198 72 243 2510 1   209
Mg2+   2 26 437 644 1 8  
Fe2+     15 2 53      
Al3+     45   2      
Cl 27 1020 305 9235 35700 235 28 20
12   11     9 3  
HCO 69 17   1940 381 851    
SO2− 22 240 654 1110   3   773
Br   2   23 92      
C02− 7 8       64 6 6
メタ珪酸 51 122 246 111 35 144 53 36
メタほう酸 4 4 7 43 154 41    
遊離CO       1097 377 17 24  
イオンの含有量には有名温泉でもずいぶん差があるが、これをみるとわかるように美人の湯に共通するのが、Clに比べてNaの量が多いということだ。
この際 K や F その他のイオンも無視し、僕なりにわかりやすく表すと

美人の湯の条件は 

  Na − Cl = 100 mg/l 以上

ということになる。

 残念なことに、三大美人の湯を含め全国の温泉はイオンの含有量がほとんどインターネット上に公表されていないので、今回これ以上の調査をすることができなかった。

長野県では田中知事が温泉の安心安全マークを作ってデータを公開したところにはそのマークを与えるというシステムを作り運用を開始しているが、他の県もそれにならって各温泉がちゃんと公開せざるを得ないようにしてもらいたいものだと思う。

 さて、なぜ「川中」「龍神」「湯の川」の3箇所の温泉が「日本三大美人の湯」となるのか由来を調べてみると、どうも1920年に鉄道院というところが編纂した「温泉案内」という本の中に色が白くなる温泉ということでこの3箇所の温泉の名前が載っているのが最初のようだ。

 また「嬉野」「斐乃上」「喜連川」の「日本三大美肌の湯」は温泉旅行博士の「藤田聡」さんが名付けられたものだ。この人は1998年の温泉のTVチャンピオンになっている温泉通。

 結局はその編集者の感触で選ばれているということで特に科学的根拠は無いようで、悪く言えば「言ったもん勝ち!」というのが現実である。
 
 
「温泉の科学」におけるツルツル度
温泉学にくわしい「やませみ」さんが寄稿されている「温泉の科学」の内容を見ると、日本一のツルツル温泉についての科学的考察が書かれている。
「温泉の科学」にあるツルツル温泉の判断基準は

  Na    CO2−  の量が多いほどツルツル度が高い  ということだ

そしてこの内容を受け、某新聞がツルツル温泉=美人の湯として温泉のランキングを発表した。
その結果は
 1位: 奥熊野温泉(和歌山)
 2位: 梅香丘温泉(和歌山)
 3位: 中山平星沼温泉(宮城)
となっている。

尚、上記有名美人の湯の中では13位に嬉野温泉がランクイン。
これら上位のものは脂肪酸からのグリセリンの発生量も多く、ツルツルというよりもヌルヌルという感触になるそうだ。

ここにあるNa+CO2−の量で判断すると言うことは重曹の量でツルツル度を判断すると言うことだ。
重曹泉の場合はカルシウムイオンやマグネシウムイオンの量が少ないのが特徴で確かに金属石鹸が発生しにくいという利点がある。お湯に入って肌を触ると確かにヌルヌルする。
しかしこの基準でいくと当然だが、アルカリ性単純泉は全てランキング外。
「日本三大美人の湯」や「日本三大美肌の湯」はいずれもベスト10圏外ということになってしまう。

まぁこの基準は重曹泉限定ということだからしかたない。
重曹泉は確かに湯船の中では肌がヌルヌルするので、いかにも美肌になったようなのだが、湯から上がった後の評価は重曹泉が必ずしも絶対というわけではないと思う。
僕も実際に重曹泉の湯船から上がったあと肌がスベスベになっていないのにがっかりしたことがある。
それは何か他の原因があったからに違いない。

つまり「ツルツル度が高い美人の湯」ではなく「ツルツル度が高い美人の湯」ということ。
僕はこの重曹泉オンリーの基準で「美人の湯度」を推し量ることには納得できない。

もともと重曹はNa2CO3という化学式で表されるが、重曹をお湯の中に入れると基本的には二酸化炭素の泡を出して溶けていき、効果としてナトリウムイオンを作り出し水はアルカリ性になる

   NaCO + HO  →  2Na + 2OH + CO

確かに重曹は美肌に効果のあるナトリウムイオンを出し、さらにアルカリ性になるのだから良いことだらけなのではあるが、おわかりのように、炭酸イオン(CO2−)そのものの量については結局二酸化炭素(CO)に変わってしまうので判断の対象には入れにくい。
コーラやソーダなどの炭酸が時間がたつと気が抜けてしまうのと同じだ。

 
 
 
まとめ
もしもあなたが美肌になる温泉に入りたいと思うのだったら、以下の温泉を選ぶと良い


 はじめ流「美人の湯」判断基準
pHが7.5以上アルカリ性の高い温泉を選ぶこと
(とはいえpH10以上の強アルカリは肌を痛めるかも)
Cl(塩素イオン)の量よりNa(ナトリウムイオン)の量の方が
100mg/l以上多い温泉を選ぶこと
Ca2+(カルシウムイオン)とMg2+(マグネシウムイオン)の合計量が少ない、もしくはSO2−(硫酸イオン)の量の方が多い温泉を選ぶこと。
かけ流しの温泉を選ぶこと
 

  ここで、2と3についてイオンの量の表示が無い温泉の場合は
  「ナトリウム−炭酸水素塩泉(重曹泉)」もしくは「アルカリ性単純泉」を選ぶのが無難な選択。
  また、海に近い温泉は塩分(=塩素イオン)が多い可能性が高いので避けることだ。
  全国で統一して「温泉分析書」の表示を義務付けるように早くしてもらいたいものである。


意見のある人、かかってきなさい!
 
 
追記−温泉の泉質と効能
せっかくだから簡単に泉質と効能の表を追加しておきます。
温泉には禁忌症もあるので注意してください。

総量
規制
泉質名(旧泉質名) 一言で言うと 効能(禁忌症)






1
0
0
0
mg
/
kg

塩化物泉 ナトリウム−塩化物泉
(食塩泉)
熱の湯
胃腸の湯
保温効果が高く、湯ざめがしにくい。神経痛、リウマチ、婦人病、冷え症、打ち身によく、飲用で胃腸病、肝臓病、便秘に効果
高血圧、心臓病、腎臓病、体にむくみがある時などの場合は飲泉は控えること
ナトリウム・カルシウム−塩化物泉
炭酸水素塩泉 ナトリウム−炭酸水素塩泉
(重曹泉)
冷の湯
美人の湯
浴後清涼感
皮膚病、やけど、切り傷にもよく、飲用では胃腸病関係、便秘に効果
高血圧症、腎臓病の場合は飲泉は控えること
カルシウム・マグネシウム−炭酸水素塩泉
(重炭酸土類泉)
冷の湯 アレルギー性疾患、リウマチ性疾患、慢性皮膚病、蕁麻疹などによく、飲用で糖尿病、通風、慢性胃腸病などに効果
硫酸塩泉 ナトリウム−硫酸塩泉
(芒硝泉)
傷の湯
中風の湯
飲用すると動脈硬化症、高血圧症、肝臓病、便秘などに効果
高血圧、心臓病、腎臓病、体にむくみがある時、下痢の時は飲泉は控えること
カルシウム−硫酸塩泉
(石膏泉)
鎮静・収れん作用が高いので切り傷、リウマチ、高血圧症、打ち身、ねんざ、やけど、痔、皮膚病によく、飲用で便秘、胃腸病などに効果。肥満によい。
マグネシウム−硫酸塩泉
(正苦味泉)
脳卒中の湯 動脈硬化の予防によく、飲用で便秘、胆のう病に効果
単純二酸化炭素泉
(炭酸泉)
泡の湯 血液の循環をよくするので高血圧症によく、飲用では胃腸病や痛風に効果
下痢のときの飲泉は控えること






1
0
0
0
mg
/
kg

鉄泉 鉄(II)−炭酸水素塩泉
(炭酸鉄泉)
婦人の湯 鉄を含み貧血症に効果があるとされ、リウマチ性疾患、子宮発育不全、更年期障害、慢性湿疹などに効果
鉄(II)−硫酸塩泉
(緑礬泉)
アルミニウム−硫酸塩泉(明礬泉) 目の湯 結膜炎に効果大、皮膚や粘膜を引き締める作用があるため痔疾、火傷、切り傷、水虫や蕁麻疹などの皮膚病に効果
硫黄泉 心臓の湯 よく温まり、末梢血管を拡張させる作用。動脈硬化、高血圧、糖尿病によく、また、皮膚を柔らかくするので慢性湿疹や皮膚角化症などに効果。
刺激性が強いので、湯あたりや皮膚の炎症を起こしやすい。
皮膚、粘膜の敏感な人は避けること。下痢のときの飲泉は控えること。
酸性泉 皮膚病の湯 殺菌力が強い。水虫や湿疹、疥癬、などに効果。仕上げの湯。
湯ただれ」に要注意。
皮膚、粘膜の敏感な人は避けること。下痢のときの飲泉は控えること。
放射能泉 痛風の湯
万能の湯
浴用よりも吸入する方が効果が大きい温泉で、神経痛や自律神経失調症などに効果。湯あたり」に要注意。
単純温泉 単純泉 家族の湯 刺激が少なく安全で名湯といわれる温泉が多い。神経痛、リウマチ、腰痛、高血圧、動脈硬化症、病後の回復、脳卒中の回復期の保養によいとされている
弱アルカリ性単純泉 美肌の湯 通常の単純泉より刺激が少ない温泉
アルカリ性単純泉