コンパクトデジカメ高画素化競争の終焉             (2009.8)




2008年NIKONからフルサイズ一眼デジタルカメラとして画素数を1200万画素に抑えたD700というカメラが登場しその表現力の豊かさから高い評価を受けた。

それがきっかけになったのだろうかpanasonicからLX3というフラッグシップコンパクトデジカメが画素数を1000万画素に抑えて登場してその写りで高評価を受け、2009年になってリコーのフラッグシップコンパクトカメラGRdigital3が1000万画素で登場。
そしてついに2009年9月canonはフラッグシップであるG11はこれまでの1470万画素から1000万画素に減少させて登場させた。

なぜ各社フラッグシップカメラを画素数いずれも1000万画素に抑えてマイナーチェンジしてきたのだろう。


これまでのデジカメの流れは「高画素=高画質」「画素数が多ければ大きく引き伸ばしてもきれい綺麗にプリントできる」など説明されて、とにかく新製品が出るたびに画素数が多くなる傾向にあった。

たとえばIXYは

発売 機種名 画素数(万画素) CCD 最高感度(ISO) レンズ
2001/4 IXY digital 300 200 1/2.7 150 F2.7-4.7
2002/4 IXY digital 300a 200 1/2.7 400 F2.7-4.7
2003/3 IXY digital 400 400 1/1.8 400 F2.8-4.9
2004/3 IXY digital 500 500 1/1.8 400 F2.8-4.9
2005/3 IXY digital 600 710 1/1.8 400 F2.8-4.9
2005/9 IXY digital 700 700 1/1.8 400 F2.8-4.9
2006/4 IXY digital 800IS 600 1/2.5 800 F2.8-5.5
2006/10 IXY digital 900IS 710 1/2.5 1600 F2.8-5.8
2006/10 IXY digital 1000 1000 1/1.8 1600 F2.8-4.9
2007/9 IXY digital 2000IS 1210 1/1.7 1600 F2.8-5.8
2008/9 IXY digital 3000IS 1500 1/1.7 1600 F2.8-5.8
2009/3 IXY digital 830IS 1210 1/2.3 1600 F3.2-5.7
2009/9 IXY digital 930IS 1210 1/2.3 1600 F2.8-5.9
2010/2 IXY 10S 1410 1/2.3 1600 F2.8-5.9
2010/5 IXY 30S 1000 1/2.3 3200 F2-5.3
2010/8 IXY 50S 1000 1/2.3 3200 F3.4-5.6
同じくPowerShot Gシリーズは
発売 機種名 画素数(万画素) CCD 最高感度(ISO) レンズ
2000/10 PowerShot G1 324 1/1.8 400 F2.0-2.5
2001/9 PowerShot G2 400 1/1.8 400 F2.0-2.5
2002/11 PowerShot G3 400 1/1.8 400 F2.0-3.0
2003/6 PowerShot G5 500 1/1.8 400 F2.0-3.0
2005/3 PowerShot G6 710 1/1.8 400 F2.0-3.0
2005/9 PowerShot G7 1000 1/1.8 1600 F2.8-4.8
2006/4 PowerShot G9 1210 1/1.7 1600 F2.8-4.8
2008/10 PowerShot G10 1470 1/1.7 1600 F2.8-4.5
2009/10 PowerShot G11 1000 1/1.7 1600 F2.8-4.5
2010/10 PowerShot G12 1000 1/1.7 3200 F2.8-4.5
ここに来て明らかに高画素化の流れにストップがかかった状態になっている。


実は高画素化には2つの側面があった。

ひとつは販売戦略からくるもの。
「高画素の方が売れる」ということである。
新製品を出すたびに画素数を増やし「精細に写る。引き伸ばしても大丈夫。画質が良い」という言葉にのって売り上げを伸ばしていった。
これがある種の「神話」となってどんどん画素数がエスカレートしていったということである。

もうひとつは技術的なもの
2001年、デジカメの画素数が200万画素程度だったころは「高画素=高画質」であった。
新機種が出るたびに高画素になり、そしてそれなりに画質もあがっていったのである。
しかし2009年、1000万画素を越えてきた今もほんとうにそうなのか?
答えは「実はそうでもない」
技術者は決して過度な高画素化が高画質を生まないことはわかっていたはずだ。ところが販売側の要求から画素数を落とすことが許されなかったという側面があるのではないかと思われるのである。

今回はこちらについて少し検証してみたい。




1.光学的要素

実はこれが一番致命的な問題である。
カメラはレンズを用いて光を屈折させて焦点を結ばせそしてCCD上(フィルム上)に像を作り上げ、それをピックアップして画像にするものだ。
その像は当然完璧な像でなければいけないわけだが、しかし光が波の性質を持つためにある限度以下に精度をあげることが出来ない。
エアリーディスクといって、これはどんな理想的なレンズでも避けて通ることが出来ないものだ。
光の回折と表現されることもある。
このエアリーディスク半径はレンズのF値と光の波長によって簡単に計算することができ、たとえばF5.6なら3.8ミクロンという限度(最大分解)が出てくる。

  P = 1.22 × 0.55 × F値        ※ 0.55μは緑色光波長。赤色光基準なら波長は0.8μ

これよりも小さなものはどんな無収差の最高級レンズを使っても表現することが出来ないのである。

もしも同じCCDのサイズのままで画素数だけを上げていくと、必然的に画素ピッチは小さくなっていくので、画素ピッチがエアリーディスク半径より小さくなると、それ以上は画素数を上げても本来の解像感は表現できないというわけだ。
エアリーディスク半径はレンズのF値に比例して大きくなる。
ということは同じCCDサイズを持つカメラであればレンズのF値によって有効な画素数には限度があるということになるのである。
それをグラフに表したのがこれ
 
                (オー・エス・フォーさんのHPから借用させていただきました)

これを見ればわかるように1/1.8サイズのCCDをもつカメラで開放F値がF2.8の場合であれば1000万画素以上は充分有効に働いていないということになる。
ズームレンズであれば望遠になるに従ってレンズの開放F値が上昇するので、さらに高画素化の意味は薄れていく。
「画素数が多いから引き伸ばしてプリントしても綺麗ですよ」という宣伝文句は半分嘘だということだ。

百歩譲って広角端開放時だけでも充分有効に画素が機能すれば良いと考えた場合

1/1.8サイズCCDカメラの場合
 ・開放F2.0レンズ → 2000万画素
 ・開放F2.8レンズ → 1000万画素
 ・開放F3.5レンズ →  650万画素


これが現実的な有効画素数の限度
これがもし1/2.5サイズCCDならもっと悲惨で

1/2.5サイズCCDカメラの場合
 ・開放F2.0レンズ → 1350万画素
 ・開放F2.8レンズ →  700万画素
 ・開放F3.5レンズ →  450万画素


が限度
これ以上に画素数を上げた場合、それによる本来の解像感の向上は期待できず、効率の悪い画素数アップということになってしまう

振り返って、panasonicのDMC-LX3は1000万画素でCCDは1/1.63型、レンズはF2.0-2.8だから、光の回折の要素は充分クリアしているカメラだといえる。
一方canonのPowerShot G10は1500万画素でCCDは1/1.7型、レンズはF2.8-4.5。仮に広角端開放F2.8という最高の状態でも有効画素は1200万画素分しかないということになる。
私のお気に入りのsonyのTシリーズの有効画素数は哀しいかなMAXでも500万画素しかない。

結局、高画素化して解像感をアップさせるには同時にCCDサイズを大きくしていくかレンズを明るくしていかないと効果があまり無い




2.ノイズの要素

コンパクトデジカメよりもデジタル一眼の方がノイズに強く、デジタル一眼でもAPS-Cカメラよりフルサイズの方がノイズに強い。
センサーサイズが大きいほうがノイズに強いということは今や常識になっている。
では画素数とノイズの関係についてはどうか、改めて簡単に検証してみよう。


まずノイズとはなにか。高感度で写真を撮ったときに写真がザラザラに見えるあれのことだ。
特に暗い部分にザラザラなブツブツがたくさん写って見える。
ISOを上げると特にそうなる。
なんでそうなるんだろうか


これは古いアナログレコードプレーヤーやAM・FMラジオの音を思い出してもらったらわかりやすい。
無音部分でサーとかジーとかという音が聞こえてくる。これがノイズ。
ボリュームを大きくして聞いていて、突然音楽が静かになったときなどに特によく目立つ。
音が大きいときにはノイズはあまり聞こえてこない。
ただ、サーというノイズ音はいつも同じ音量で鳴っている。

つまり最初に録音されている音が大きければノイズは目立たないが、小さな音で録音されていたらボリュームを上げて聴くようになるのでノイズが目立つようになるのである。
これと全く同じことがデジカメでもいえる。

感度を上げて撮影するというのは現実には小さな音を録音した後にアンプでボリュームを上げて聴いているのと同じで、CCDが取り込んだ暗いデータを後からアンプで大きくして明るく見せているからノイズが目立つようになるのである。

つまりセンサーひとつの大きさが大きければ大きいほど多くの光を受け入れて録音(録画)することができるが、センサー各々のサイズが小さくなると受け入れる光が小さくなる(暗くなる)ので、同じ明るさに見せるためにあとからアンプで大きくする(明るくする)必要がある。そのときにいっしょにノイズも大きくなってしまう。

結局画素ひとつのセンサーサイズが小さいほどノイズは多くなる。イコール画素数が多いほどノイズは多くなる
単純に言うと、画素数が2倍になると1素子が受ける光量は1/2になるので、信号を2倍に増幅しないと結果同じ明るさにならない。つまり1素子あたりでは画素数2倍なら感度2倍と同じになる
(ただし画素ひとつひとつのノイズが増加しても、素子が小さくなった分ひとつあたりのノイズは目立ちにくくなるという傾向はあるので、全体で見るとストレートに画素数2倍で1段分ノイズ上昇と感じられるわけではない)


・ノイズ除去について
デジカメの画像データは数値データなので、発生したノイズは各社いろんな工夫をして除去してみせている。
それが各社の技術ノウハウとなっているわけだ。(たとえばcanonはdigicという画像処理エンジンが少しずつ進化して現在はdigic4となり、ノイズの処理がだんだん上手になってきている。ただし画像素子から取り込んだだけのRAWデータ状態でのノイズについては減少しているようには見受けられない)

典型的なノイズ除去の方法として、(ノイズと同程度の)音が小さい部分(暗い部分)はカットしてしまい、ある程度以上の音量(明るさ)のものだけを取り出すという方法がある。
つまり元の暗い部分は真っ暗に、やや暗かった部分はさらに暗くするなどし、明るい方からの基準で(ノイズの少ないところを使用して)写真全体のバランスをとるという画像処理方法だ。
そうすることで見かけ上ノイズの少ない画像をつくることができる。

しかし言い換えれば、撮ったデータの明るい部分だけで写真を作っているということは、結局明るさを表現できる範囲は狭くなったということでもある。
結果として写真のダイナミックレンジが狭くなり白飛びしやすいということも発生してくる。

ノイズの多い少ないとダイナミックレンジの広い狭いは表裏一体の関係なのだ。
そのまるで反対が「フルサイズカメラはダイナミックレンジが広い」と言われる所以。


結論としては
高画素化を進めると(一つひとつのセンサーのサイズが小さくなりそれによって)ノイズが増えるもしくはダイナミックレンジが狭くなるといった画質を悪化させる現象が発生してくる
ということだ。

結局これを回避するにはセンサーサイズを大きくすることが一番の近道ということになる。
ただし、このノイズの要素は光学的要素とは異なり、センサーのS/N比を上げる、ノイズ処理ソフトの開発などにより今後改善されていく余地は大きい。





3.今後の方向

今回のcanon PowerShot G11の発表でおそらく今後一方的なコンパクトデジカメの高画素化の流れは終焉を迎えたのではないかと思う。

上記のようにセンサーサイズと画質というのは非常にかかわりが大きく、少しでも大きなセンサーが望ましいのだが、センサーサイズがデジカメの価格に与える影響は大きく、安価なコンデジはセンサーサイズを簡単に大きくすることは出来ないだろう。
またコンパクトデジカメは名前本来のコンパクトである必要もある。センサーを大きくしていくと当然レンズその他も大きくなりコンパクトから外れていく。

先日オリンパスやパナソニックからミラーレスで小型のレンズ交換式デジタルカメラが登場したりして、デジタル一眼レフとコンパクトデジカメの中間にあたるカテゴリーの製品が出てきた。
このようにデジカメ自体が多様化している昨今、今後各々のデジカメのコンセプトはさらに明確にしていかなければならず、使い方のみならず画質に対する価値感もそのコンセプトによってそれぞれ異なってくるだろう。

そういった場合どんなコンセプトのカメラであろうとも、カメラサイズそしてセンサーサイズとレンズの明るさによって、最終的にバランスされた画素数のカメラになっていくというのがコンパクトデジカメの正常な進化形だと僕は思う。

無駄な高画素化とはオサラバだ(^^;;;