広島交響楽団第13回福山定期演奏会を聴く
 

〜モーツァルト生誕250周年記念「愛しのモーツァルト」〜


http://rafule.com/hso/index.html
 
広島交響楽団の第13回福山定期演奏会を聴きにリーデンローズに行ってきた。

 今年はモーツアルトの生誕250周年ということでタイトルは「愛しのモーツアルト」。そしてプログラムの中にモーツアルトの曲が2曲ある。しかし今回のほんとのメインはベートーヴェンの「英雄」だ。ちょっとタイトルに文句を付けたくもなるが、まぁそんなことはどうでもいい。

広響を聞くのは今回で5回目。
前回秋山氏指揮のブラームスには感動させてもらったが今回の「英雄」ははどうだろう。金聖響氏の棒さばきはいかがなもんなのか楽しみだ。さらに今回はモーツアルトのピアノ協奏曲第20番を美人ピアニスト三舩優子さんの演奏で聴くことが出来る。

会場に着いたのは開演の15分前。ややギリギリといったところなのだが、当日券売り場にはまだ長蛇の列が出来ていた。僕は前日に予めチケットを購入していたので問題ない。
前日はまだまだ空席が残っていたので(中央はさすがに無かったが)今年も入りが少ないのではないかと心配したのだが、プログラムがポピュラーな名曲のせいか美人がやってくるせいなのか、クラシックのコンサートに人が多く訪れてくれるというのは福山の文化振興にとってうれしいことだ。

僕の席は1F14列L15番。前よりの席で前日空席表を見たときにはこれでも一番中央寄りの席だったのだが、左側の席を選んだのを後から後悔することになる。

さてこの日のプログラムは

〜モーツアルト生誕250周年記念「愛しのモーツアルト」〜
  1.モーツアルト、オペラ「フィガロの結婚」序曲
  2.モーツアルト、ピアノ協奏曲第20番ニ短調
           休憩 
    〜聖響、英雄(エロイカ)に挑む!〜
  3.ベートーヴェン、交響曲第3番変ホ長調「英雄」

となっていた。

最初のフィガロの結婚では広響の音が地味に聞こえた。
どうも弦の音の鳴りが悪い気がする。
こちらの耳が慣らされていないせいもあるのかもしれないが、いつも1曲目というのはそうだ。ヴァイオリンソロのコンサートの場合もそんな気がするが、本当に鳴りが悪いのか自分の耳のせいなのか良くわからない。
それが気になっているうちにすぐ曲が終ってしまった。

ピアノが舞台中央に運ばれてきて2曲目の準備が整う。
ピアニストの三舩優子さんが登場した
 「WINGED」のジャケットより

黒ベースに派手な柄の入ったドレス、横にスリットが入っていて大人の雰囲気を漂わせている。上の写真よりはふくよかで体格が良い、美形の顔立ちも相まって一言で言うとゴージャスなイメージを僕は感じた。

モーツアルトの20番のピアノコンチェルトはモーツアルトとしては珍しい短調であることから有名な人気曲だ。
このゴージャスなピアニストがどういった演奏を聞かせてくれるのか興味津々に思っている中で曲が始まった。
僕にとって最初のイメージは「おとなしいなぁ」というもの、舞台の左手だったので指使いは良くわかるのだが、さほど鍵盤の上を指が踊るわけでもない。響きは豊かだが端正ということもなく、またさほど歌わせるわけでもない抑制の効いた演奏か。
ところが1楽章のカデンツァから印象が変わった。
大音量を響かせたあたりで解き放たれたというか、そこから2楽章3楽章とロマン的な響きを感じさせるゴージャスな第一印象どおりの聞かせるモーツアルトだった。
しかし、今回僕は舞台左側の席を選んだことを非常に後悔した。その豊かな響きはその席では充分堪能できないからだ。ピアノは後ろ側斜め45度の角度で位置が一番良い響きを聞くことが出来る。右側の席であればその本当の響きを聞くことが出来るし、彼女の弾くときの表情も見ることができるのだ。
実はヴァイオリンコンチェルトも同じ意味からそうなのだが、ピアノコンチェルトも右側の席で聞くべきだった。指先が見れることよりも表情が見れること+響きの豊かさのほうが絶対得だと僕は思う。

休憩を挟んで今度は「英雄」だ。
金聖響という指揮者は現在売り出し中の人気指揮者。基本的には原典主義の人らしい。
一般的に長い交響曲などは繰り返しを省くことが多いが、原典主義の人はほとんど忠実に繰り返しを行う。
オーケストラはこれに従ってか左右対向配置となっている。
左右対向配置というのは第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリン左右前列に分かれる配置で、もともと昔のオーケストラはこういった配置だった。しかし第二ヴァイオリンの面がお客さんの反対側を向くという問題から有る時期から第一ヴァイオリンの隣りに並ぶようになり右側前列はチェロというのが主流になった。
ところが現在は原典主義への回顧からか対向配置がまた見直され、逆にその方が多い位である。
そもそも作曲家の意図として左右対向配置を前提に作られている曲も多い。チャイコフスキーの「悲愴」の4楽章なんかはいい例で、音が左右に揺れて聞こえるように作曲されている。

さて、曲が始まった。
英雄という曲はベートーベンの中では古典派からロマン派に踏み出した重要な交響曲という位置付けの曲であるが、僕の中ではまだ古典派の曲だと思っている
原典主義ということなのか曲のテンポがとても速い。
さらにそのテンポを指揮者が故意に揺らしている。
どうもそれに広響がついて行っておらず時としてアンサンブルが乱れている。

長い1楽章だが、注目している部分があった。
コーダに入る前に英雄の主題が「ドーミドーソドミソソー、レーファレーソレファソソー」と演奏される部分、最初の「ドーミドーソドミソソー」はホルンが吹くようになっているのだが、後半の「レーファレーソレファソソー」の部分はベート−ヴェンが書いた原曲では木管で演奏するようになっている。木管で演奏するとここの部分は周りの音が大きいためメロディーが聞きづらくなってしまうのだが(オーケストラの規模が昔は小さかったのでまだ木管の音が聞き易かったということもある)、実はその当時のホルンはこのレ・ファの音が出し辛かったのでやむを得ずベートーベンはそう作曲したという考え方が一般的だ。ところが現代のホルンは性能が上がり簡単にこの音を出すことが出来るようになったので、本来のベートーヴェンの意思を汲み取り、後半の「レーファレーソレファソソー」の部分もホルンで演奏されることの方が今は多いのだ。
今回の金聖響氏の演奏は原典主義という評判通りでこの部分は木管で演奏していた。
ところが残念なことにこの木管の「レーファ・・・」という音は他の響きにかき消されてしまい全く聞きとることが出来なかったのだ。

結局今回の英雄は原典主義ということながらテンポは揺らすし古典的な響きにもなっておらず、僕にとってはとても消化不良の英雄だった。
広響は金聖響氏とのリハーサルをどの程度行ったのか良くわからないが、前回の秋山氏が振ったブラームスの時との出来は雲泥の差で、特に弦のアンサンブルの乱れが気になる。
前回の演奏を聞いているだけに、実力を全く発揮できないコンサートだったに違いない。

これは僕の予想だが、広響のメンバーが金聖響氏の意思をあまり汲み取れていなかった、もしくは反発を感じていたということではないかと思う。
あるいはリハーサルが不足していたのかもしれない。

アンコール曲はベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲
これは「英雄」の4楽章の主題と同じ・・・というか、もともとが英雄の方が後からパクリで作曲されたこととなっている。アンコールを聞く側にとってはこの選曲はとても楽しむことが出来た。




英雄は少し残念だったが、モーツアルトはとても楽しく聞くことが出来、まずまずのコンサートだった。広響は次回にまた期待したい。

演奏会が終わり、三舩優子さんのサイン会があったのだが、そのとき彼女の写真を撮らせてもらった。さらにリーデンローズ職員の方に彼女と僕との2ショット写真も撮って頂き大感激!!



その後彼女のCDを聞いてみたが、とても響きが豊かでまさにゴージャスな演奏。CDの中では特にプロコフィエフ・ラフマニノフは素晴らしい。どうもモーツアルトよりもそういったロマン的な曲の方がお似合いのようだ。
リストを演奏したCDも出ているようなので近いうちにそちらも聞いてみたい。
彼女のファンになってしまったようだ。