広響第10回福山定期公演を聴く

 

”ベートーヴェンの「交響曲の真髄」に秋山が迫る!”


http://rafule.com/hso/index.html
 
広島交響楽団の福山定期公演を聞きにリーデンローズに行ってきた。

 毎年一度広響は福山にやってくるのだが聞くのは今回で3回目だ。
今年は曲目がベートーヴェンのエグモント序曲、交響曲第8番・第7番ということと、ちょうど休みだったこともあって行ってみたくなった。
この曲は実は思い出深い曲だからだ。
 実は僕は大学時代に管弦楽部に一時期在籍していたことがあって、入部時初めて部室で聞いたのが先輩が練習していたエグモント序曲だった。
このときオケのすぐ後ろで初めて聞いた響きは今でも覚えている。メンバーの一体感、コントラバスのおなかを揺らすような音、曲の魅力もあいまってとても感動したもんだ。
 また7番は僕がまだ小さい時、生まれて初めて自分で買って聞いたクラシックのレコードだった。
レコードプレーヤーは今埃をかぶっているけれど、そのレコードはもちろん大切に持っている。 
 当日。予約ができなかったので、当日券4000円を買って入ることにする。
いい席があればと思っていたが、意外にも前から3列目のセンターをゲットすることができた。どうも人気があまりないようだ。
開演5分前に席につく。なかなかいい席だ。近すぎるといえば近すぎるけど楽団員さんの顔が良く見える位置で嫌いじゃない。
 そもそもリーデンローズは中国地方最大のコンサートホールで2003席(2位は岡山シンフォニーホール・広島厚生年金会館の2001席)と広く、3階席まである。よく響くホールで残響音も満席時で2秒弱の設計となっている。これがまた座る位置によってぜんぜん響きが異なり1階の後ろは最悪で、オーケストラを聴くのなら3階のB席のほうがずっとバランスが良くきこえるのだ。
しかし前の方であれば直接音が主体になるのでバランスがおかしくなる心配はない。
もちろんこのことはどこの大型ホールでも言える。
僕の経験では中国地方で一番響きのいい大型コンサートホールは岡山シンフォニーホールで、よくクラシック系のコンサートがある広島の郵便貯金ホールよりもリーデンローズの方がやや優ると感じた。
 
開演時間がきた。
後ろを振り返ってお客さんの入りを確認する。
やっぱり少ない・・・・・これは1000人以下だ。
こりゃあ響きすぎるぞ・・・・

舞台が明るくなり客席が暗くなる。楽団員の入場。
なんか若い人が多い。美人もいる。
程なくオーボエのAの音が鳴りそれに続いてチューニングの音が広がる。
コンサートが始まる前、この音を聞くと誰しも徐々に緊張が高まってくるに違いない。

指揮の秋山氏が登場してきた。
この人1998年のシーズンから広響の首席指揮者を務めていてもう6年になる。同時に東京交響楽団の常任指揮者・音楽監督も務めている日本でもとても名の知れた大御所とも言っていい人だ。

秋山氏がお辞儀をし、くるっと背を向けると同時に拍手が鳴り止み、一瞬の静寂が訪れる。
棒が振りおろされエグモント序曲が始まった。
冒頭低音の弦が響く。
まさにエグモント、快い響き。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
                     (演奏)
第一部はエグモント序曲とベートーヴェン交響曲第8番
破綻のないちょっと抑制の効いた演奏だった。
最初はそんなもんかな・・・
 でもさすがにプロ。広響はなかなかうまい。
若いメンバーが多いせいなのかもしれないが、昔聞いたときよりもうまくなっているような気がした。
15分間の休憩
ホールに出てみんなの様子を見てみる。
比較的制服を着た女学生が多くきているが、全体としてはやっぱり閑散としている。

リーデンローズの次長という人にちょっと聞いてみた。
僕 「なんか少ないように思うんですけどいつもそうなんですか?」
次長「例年は700人くらいは入るんですけど今年は500人くらいでしょうか。
   曲目と時期そして誰が来るかの問題だと思います。
   時期が悪いというのもあるのですが本当に少ないですね。」
僕 「秋山さんは有名でしょうに。(毎年同じ指揮者ということか)
   福山にもオーケストラがありますよね。それと比べてどうですか?」
次長「福山シンフォニーで1000人くらいでしょうか、チケット代が安いですからね。
   それと自分で演奏される方は自分でチケットを買ってまでこられることはあまりないようです。
   今日も見かけませんね。」

うーん・・・・
どうも福山の素人演奏家たちは自分たちより上手な演奏は聞きたくないらしい・・・
広響このさき大丈夫だろうか・・・・心配になってきた。
 広島交響楽団は中四国地方唯一のプロのオーケストラだが経営は決して楽ではない。
数年前累積赤字が1億6000万以上になって存続が危ぶまれていた時期があった。
公演収益が2億5000万円に対し年間支出が6億というのが広響の実体だ。つまり国や企業からの補助で成り立っているわけである。
 広島県と広島市から1億2000万円づつの補助を受け、文化庁からは1億200万円の補助を受けることにより、なんとか黒字転換したと聞いている。
しかしこの補助額はまだ九州交響楽団や札幌交響楽団と比較すると、まだ1億円も少ないのだそうだ。
この補助を受けなければやっていけない地方オケの問題点がそこにはある。
 なんといってもこれだけの補助金をもらう限りは文化振興が最重要課題だろう。
それなのにこのお客の入りはどうなのか?
福山市では一年にたった1回の定期公演だというのに、お客はたった500人だ。それでいいはずがない。
 まずはクラシック音楽の底辺を広げることに寄与するのが最優先課題じゃないだろうか。
学生に対しては1500円と格安にはなっているものの、S席4000円という価格はどうなんだろう?
女子学生が多く来ているが(私学「暁の星」の女の子)、これで底辺を広げることになってるんだろうか?
 この現代花嫁修業も兼ねてピアノを習おうというような人が増えてきたという話は聞いたことがない。学校教育の一環として広響を聞きに来てるのであればそれなりの価値があるというものだが、いまどきの高校生は親などに誘われても、クラシックを聞きにコンサートに付き合おうという気になるとは思えない。
僕はどうも疑問に思った。
 どうせならまず第一にターゲットは小学生じゃないといけないんじゃないだろうか?
それには対象を親子連れに絞った選曲をしたらどうだろう。広響がアニメや映画音楽をやってもいいじゃないか。
コンマスが曲の説明をしながら演奏してもいい。1部と2部と脈略のないプログラムででたらめだと思われるかもしれないが、1部がアニメ・2部がベートーベンでもいいじゃないか。
それに僕はベートーヴェンの7番が聞きたくて来たからいいというもんだけど、「ベートーヴェンの真髄に迫る」なんていうタイトルじゃ、ベートーベン好きの親しか来やしない。特に親が子供を誘って来にくいんじゃないか。
「大人を呼び込むための」もしくは「主催者からみた」選曲およびタイトルになっちゃいないか?心無い批評家の暴言を恐れてはいないか?福山市の理解が悪いのか?
 そしてどうせ公演収入が40%しかないのなら、CD並みの2500円くらいにしたらどうだろう。たしかドイツに行ったとき地方のオケはそのくらいだったような気がする。それなら僕だったら毎月でも来たい・・・^^;
 とにかく小さい子にオーケストラの音を聞かせてみることが、クラシック界に一番重要なことじゃないかと思うんだけどどうだろう。
そうじゃなくても敷居が高いと思われるクラシック音楽。死ぬまでオーケストラの音を一度も聞いたことがないという人がどんどん増えてきそうだ。
どうも地方クラシック界は瀕死の重傷に陥りそうな予感がする。
 そんなことを考えているうちに第二部の時間になった。
期待のベートーベンの7番。
 この曲の1楽章の序奏はまるで宇宙のようで、本当は3階で響きの中にうずもれて聞きたいという気がするがそうもいかない。
チューニングがはじまり、また緊張が高まってくる。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
                     (演奏)
ほんとうにいい演奏だった。
4楽章のコーダの部分は特に気持ちが高揚してしまって目頭が熱くなった。

ベートーヴェンは本当にすごい!
純粋に音楽だけでこれだけ人の感情を動かすものが良く書けるものだと思う。
普通音楽はその人の思い出とかと同時にリンクして気持ちを高揚させたり涙を流させたりするけれど、それ無しでこれだけ感動させるんだから、この曲は今後人間が地球にいる限りどんなことがあっても消え去っていくことは無いと思う。
特に9番・7番・5番はそれが明確だ。
 最後広響も抑制を解き放ちしっかり弾いていたので後味がとてもいい。そのせいですこしくらい音が乱れたりしてもそんなことは大きな問題ではないとおもう。
欲を言えばバランス的にチェロ・コントラバスのパワーがもうすこし欲しいとは思ったけど、広響は本当にプロだと思った。
とにかく感動させられた。
コンサートが終わり高ぶった気持ちのまま帰りながら考えた。

広響を聴きに来る人はきっと音楽が好きな人ばかりなんだろう。
 海外の有名オーケストラがやってきたりしたら高いお金を払ってでも聞きに行くが地方のオケは2流だから安くても行かないなどという声を時々耳にする。
しかしこれはブランド思考の強い典型的日本人の考えることで、そのコンサートに行くこと自体を自分のステータスとして見栄やプライドにしたがっている人たちじゃないかと思う。最重要目的は行くことそのものにあり、音楽を聞くという目的の優先順位は下なんじゃないかと思う。
そしてそんな人は音楽性の差なんてちっともわからない人に違いない。
 本当に音楽が好きな人なら安いコンサートを何度でも行ったほうがずっと心が豊かになるはず。
その時のオケの調子もわかってくるし、オケが上手になれば聞いてる方も別の意味で楽しいって事もある。
もちろん広響が下手でどうしようもないというのなら別だけど決してそんなことはないのだし、広響は音楽の真髄を伝える力を充分持っているのだ。・・・・と
 
というわけで、正直久しぶりに興奮した一日だった。